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相撲は1日2食で稽古、駅伝で腕立てに「なんで?」 異なる世界の2人が共鳴、令和の指導者が持つべき“疑い”の目――青学大・原晋監督×中村親方対談

食事や稽古について語った中村親方【写真:舛元清香】
食事や稽古について語った中村親方【写真:舛元清香】

リーダーが選手に対して“ここぞ”の場面で発動する「拒否権」の意味

――親方は現役の時、年齢を重ねるに連れて強くなった印象がありますが、やはり食事には気を遣われていたのですか。

 中村「相撲ってありがたいことに体重制限がないので、どれだけ食べてもいいんです。体が大きければ大きいほど、筋力をたくさんつければつけるほど、勝つ確率が上がると思っていました。たんぱく質を多く摂る食生活が良いということをトレーニングコーチから習い、朝稽古の前に食事を摂っていました。

 私の師匠の元尾車親方(元大関・琴風)は細かいところまで口うるさく注意する人ではなく、『関取になればもう一人前、番付を上げて活躍するのも、何もやらずに怠けて落ちるのも自分次第で自己責任』というような師匠でした。ただ肝心な時には心に響くことをズバっと言って指導していただきましたが、普段は食生活も稽古のやり方も、任されていました。ですので、朝稽古もそれほど厳しい内容ではなく、朝食を含め1日3食、食事を摂るようにしていました。

 30歳をすぎて、自分の理想の相撲が取れるようになりましたが、稽古量はそんなにというか本当に少なくて、相撲を取る稽古は年間で10日もやってないと思います」

 原「そのような稽古量でも十分と感じたということですか?」

 中村「ここでも先ほど話した『なんで?』に繋がるのですが、なんで毎日たくさんの番数、相撲とるのか疑問に思ってました。昔、ある横綱の稽古の記事を読んだのですが、その横綱は若い衆と1日15番相撲をとって、勝敗が4勝11敗とかなんですよ。番数、勝敗ではなく、どこまで自分が追い込まれたら負けるとか、この辺までだったら大丈夫とか、いわゆる危険水域を稽古で感じるという事を実践していた。というような記事内容でした。

 自分も稽古場はそうあるべきだと思っていて、できないことをできるようにするのが稽古だと。できることを反復でやることは、30歳を過ぎた自分にはできないなと思い、毎日相撲をとる稽古をやめました。筋力をつけて、本場所1週間前の連合稽古で琴奨菊関や稀勢の里関に胸を借りて、本場所のようにフルパワーで当たって行って全力を出すという稽古をして、初日にピークが来るように調整しました。なぜなら、初日が一番勝ちやすいから。根拠はありませんが。

 初日は独特の緊張感があり、少なからず横綱大関もみんな緊張すると思うので、確率として横綱大関に一番勝ちやすい日は初日だと勝手に決めつけていました」

 原「だから初日に番狂わせが多いんですね」

 中村「そうなんですかね。自分は初日に横綱と当たる番付にいたときは、そう思っていたので、稽古の内容も初日にピークをもっていくように考えてました。毎日、番数をこなす稽古はしませんでした。それを認めてくれた師匠や部屋の環境が本当にありがたかったです」

理想の指導者像について原監督と中村親方は意気投合した【写真:舛元清香】
理想の指導者像について原監督と中村親方は意気投合した【写真:舛元清香】

――今の時代のスポーツ界において「いい指導者」というのはどんな指導者だとお考えですか。

 原「それはやはり『説明力』だと思いますよ。語彙力。いろいろ言葉を持つことだと思いますね。決断というのは最後にリーダーがすることなので、僕は拒否権を持っていると思っているんです。選手にチャンスを与える時に『君はどうしたいのか』と聞き『僕はこうしたい』というような言葉を選手側から言わせるように仕掛けていく。中にはとんちんかんなことを言う選手もいるし、屁理屈や曲がったことを言う子もいるけど、可能な限りは「それでやってみなさい」とチャンスを与えるようにしているんです。

 でも明らかにダメなときには『これはしちゃダメだぞ』と拒否権を発動します。この拒否権は、相撲界ではまだ力士が甘いときや番付も下だったら即発動でいいけど、上の番付になったら、尾車親方のようにそれはお前の責任だからって、拒否権はできるだけすぐには発しない。いい指導者というのは、まずは選手に責任を持たせ、最後は拒否権を持ったリーダーがダメだとしっかり言えるかじゃないですかね」

 中村「尾車親方は本当にそうでしたね。自分は師匠にいわゆる拒否権を使ってもらったことがあるんですよね。それはズバッと『嘉風はこのまま終わっていくのか? 番付落ちていくのは早いぞ』って言われたんですよ。それって裏を返せば、もっと稽古しろってことだなと解釈しました。成績も良くなかったときでしたし。今、監督がおっしゃられた話が、親方のリーダーシップに重なりますね。結構真剣に言われたんでグサッときたんです。ちゃんと稽古やろうって。落ちたくないし。『どうやって自分が名前覚えられたかを振り返ってみろ?』と。原監督や師匠の尾車親方のように、自分も正しく拒否権が使えるような親方になりたいです」

 原「中村親方にはぜひ横綱を育ててほしいですね。そうなれば必ず大学の相撲部の監督さんも、中村さんのところに行けば成長させてくれる、となる。今までと違うことをやって結果が出たら、身体能力の高い力士がどんどん入ってきて好循環が生まれてくると思うんですよね。期待したいですね」

 中村「それは自分も望んでいます。もっと精進したいと思います」

(THE ANSWER編集部)

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