相撲は1日2食で稽古、駅伝で腕立てに「なんで?」 異なる世界の2人が共鳴、令和の指導者が持つべき“疑い”の目――青学大・原晋監督×中村親方対談
多様化が進むスポーツ指導において、個人を、そしてチームを強くするための「いい指導者」というのは、いったいどんな存在なのだろうか。「ABEMA」の大相撲初場所中継でも共演した青学大陸上競技部・原晋監督と、元関脇・嘉風の中村親方との異色対談が実現。数多くの学生ランナーを育て上げた原監督が掲げる指導論には、部屋を興してまだ7か月の新米親方も興味津々。一方、相撲界の慣例にとらわれない稽古やトレーニング方法を導入し、弟子の育成論や師匠のあり方を追求する中村親方には、箱根駅伝を11年で8度制した名将も今後の飛躍を期待するなど、歴史も競技性も全く違う世界で活躍する2人が令和のスポーツ界の指導者のあり方について語り合った。(構成・THE ANSWER編集部 瀬谷 宏)

ABEMA大相撲中継で共演
多様化が進むスポーツ指導において、個人を、そしてチームを強くするための「いい指導者」というのは、いったいどんな存在なのだろうか。「ABEMA」の大相撲初場所中継でも共演した青学大陸上競技部・原晋監督と、元関脇・嘉風の中村親方との異色対談が実現。数多くの学生ランナーを育て上げた原監督が掲げる指導論には、部屋を興してまだ7か月の新米親方も興味津々。一方、相撲界の慣例にとらわれない稽古やトレーニング方法を導入し、弟子の育成論や師匠のあり方を追求する中村親方には、箱根駅伝を11年で8度制した名将も今後の飛躍を期待するなど、歴史も競技性も全く違う世界で活躍する2人が令和のスポーツ界の指導者のあり方について語り合った。(構成・THE ANSWER編集部 瀬谷 宏)
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――中村親方は部屋を興されて、1日3食摂取や昼稽古を含めたトレーニングを導入するなど、相撲界においては斬新なスタイルを取り入れて注目を集めています。一方、原監督は最近11年で箱根駅伝優勝8回を成し遂げ「原メソッド」といった指導法を確立された指導者として実績も重ねています。お二人とも前例にとらわれない指導法という共通項があるように思えますが、そうした境地に至った理由や経緯といったものを教えていただけますか。
原晋監督(以下原)「それはまず、私自身がある意味、素人だったということです。多くの選手は天才肌ではない。一方で、名選手というのは何もしなくてもできてしまうという天才的な能力を持っています。やるべきことが『10』あったら『8』くらいはできてしまう。でも凡人はまず1も2も3もわからない。私自身も選手として凡人だったので、それをどうやったらわかるようになるか、というような視点で学生と向き合っています。
だから、キホン(基本)の『キ』という部分を大事にしています。陸上競技、長距離の世界で『キ』は何なのか。そんな思考をずっと持っている。だから、革新的なことをやっているというけれども、そうではない。型があるから『型破り』って言うのであって、基本となる型を作るところからスタートしたわけなんです。そして型にはまることなくベースを作り、それを常にバージョンアップしていくということの繰り返し。皆さんにはすごく突飛な、革新的なことをされていると見られるんですけど、実はそうではなく、基本を積み上げていっているだけなんです」
中村親方(以下中村)「ものすごく参考になります。私も新しいことをしているように見られますが、実は基本的なことを身につけることが大事だということは同じ。アプローチの仕方が違うだけで、考え方は変わっていないのかなと思います。
私自身、普段から『なぜだろう?』と疑問を持ったり『本当に正しいのか?』と自問することが多いんです。たとえば、なぜ稽古は朝に行うのか、なぜ1日2食なのか、といったことなど。 赤ちゃんが成長して少しずつ話せるようになる過程で『これ何?』『あれはなんで?』とたくさん質問をする時期がありますよね。それと同じように、不満ではなく、さまざまな疑問を抱きながら日々を過ごしてきました」
原「相撲界は1日2食というのが普通なんですか?」
中村「普通です。朝起きたら食事を摂らずに稽古場に下ります。稽古で体を動かした後、11時くらいからその日の1回目の食事を摂ります。たくさん食べて昼寝をして、午後6時くらいに夕食というのが基本的なスタイル。個人でサプリメントを摂る子もいますが、食生活は2食です。
力士は食事で摂取するカロリーが多いので、それを消費しなければ肥満になっていく。体が大きくても思い通りにコントロールできる、能力の高い力士になってもらいたい。消費カロリーと摂取カロリーのバランスをよくする必要もあります。たくさん食べるのであれば、たくさんトレーニングしたほうがいい。朝食、昼食でしっかり栄養を摂って、体に十分栄養が行き渡った状態で夕方に稽古すると能力も上がりやすいという話も聞いたので、夕方に稽古をするようにしたんです。革新的なことをやっているように見えるかもしれないですが、どうやったら預かった力士が強くなるかということを、自分の現役生活の時と照らし合わせているんです」
原「本当におっしゃる通りだと思います。今までやってきたこと、それは正しいんですかっていうことが、陸上界にも多々あったんです。例えば補強運動一つとっても、最近までは腕立て伏せ、腹筋、背筋、鉄棒とかをやっていました。ジュニア期において身体能力を上げる意味としては、それは正しいトレーニングだったかもしれません。でも、走るということにおいて腕立てとか鉄棒をして、首回りに筋力をつけたところで早く走れるんですか、と。
腕を振るための筋肉ってあるわけなんですよ。最近はコアトレーニングと称して体幹トレーニングが流行っていますが、それは理にかなっています。軸をきちっと作ることによって、体幹がしっかりして、横ぶれや縦ぶれをしなくなる。筋肉で腕を振るのではなくて、柔軟性を持たせることで自然と腕を振れる。逆に肩回りの筋肉をつけたら、鎧を着るようなことになり、腕を振れなくなります。それって走るための筋力トレーニングじゃないでしょ、という論法になってくるわけなんです。
中村親方と同じように、私も『それ、なんでなの?』というのが実は好きなんです。それを何のためにやるのかという『根』の部分が知りたい。それを一つひとつ整理していくと、今までの陸上界がやっていたこととは、ある意味真逆なことが多々ありましたね。KKD(経験、勘、度胸)で今まで動いていたのが、我々はサイエンス、データに基づく指導スタイルにいち早く取り組んだ。革新的と言われますが、結果としてそれは当たり前ですよね、となっているんです」