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部活指導者は「町工場の経営者」と同じ 学生陸上界の名将、駒大・大八木弘明の指導論

復活を遂げた駒大、その裏にある選手との深い信頼関係【写真:松橋晶子】
復活を遂げた駒大、その裏にある選手との深い信頼関係【写真:松橋晶子】

エース・田澤が語った大八木監督「僕からすると最高の指導者としか言えない」

 学生スポーツの監督として悩みになるのが、メンバーの選抜。目標とする大会に向け、選手は競い合うが、ユニホームを着られる者は限られる。

 大八木監督も「一番つらい仕事」という作業だ。特に、箱根駅伝で4年生を外すこと。引退する者はその選択がすなわち、競技人生の終わりを告げることになる。駒大は外した選手を個別に呼び、外した理由を説明するという。

「なぜ、自分のタイムが上なのに外されたのかと思う選手はいますよ。本当に微妙な差でね。その時に納得いかない子はいる。だから、チームに結果を出させることも大事だし、なぜ外したか理由を説明することも大事。それで結果が出なかったら指導者の責任だから。私は『箱根は(目標は)3番以内だ』と公言しています。それで今年のように3番以内に入れたら選手は納得するし、5、6番なら納得いかないでしょう」

 大会前にはミーティングで往路5時間○分、総合10時間○分というチーム全体、そして10人それぞれのタイムも含め、自らのプランをすべて伝える。監督の覚悟は先に見せる。後出しにしてうやむやにしない。責任をフラットに負う意識の表れだ。

「走る前に私のシナリオを言わないと(外れた選手が)納得いかない。後から言うのは誰でもできるから。それじゃダメ。私も3番以内を目指す時に覚悟を決めないと。『あの時の態度はチームにとってマイナスだから落とした』などと伝える。それをいつどこで見ているかが指導者。見ていたら、決められる。常に現場を見る。人を見る。それをやらないと選手にそういう思いをさせてしまうから。だから、自転車でつくんですよ」

 これだけメンバー外にも心を尽くすのは、彼らの将来を思うからこそ。卒業後、実業団に進む選手には五輪や世界陸上に出る選手になって欲しいと願う一方、4年間で引退する選手にも同じくらい社会で活躍してくれることを願っている。それも学生スポーツの指導者として当然のこと。

 大八木監督も高校卒業後は市役所勤務などを経て24歳で駒大に入学。箱根駅伝に出場した苦労人でもある。

「4年で終わる選手には当たり前のことを当たり前にやる人間にしてあげたい。それはやっぱり気配りですね。そういう感性のある人間にしてあげたいということ。何かを感じる感性がない選手はどこに行っても成功しない。野村克也さんも言っていたけど、子供たちに『鈍感は罪だ』とよく言うんです。鈍感になったら何を言っても感じない。そうなったら終わり。そういうことに気づいてもらえるようにしているつもりです」

 今年63歳を迎えた。寮母を務める京子夫人と二人三脚で長い道のりを歩いてきた。これからのチームの目標を聞けば「常勝軍団を作ること」「箱根で勝つこと」などが挙がるだろう。では、これからの自身が指導者として持つ目標は――。

 聞くと、最初に出てきた言葉は「この子供たちをしっかりと育てていくことですね」だった。

「個々の選手を高校から入って伸ばしていく。タイムも人間も成長させていくことが大事。その中にトラックで伸びる子も、駅伝やマラソンで伸びる子もいる。全部を一緒くたではなく、個人個人を伸ばしていく。駅伝というのはその時、一つになればいいので。子供を成長させていくこと」

 雌伏の時を経て、復活を遂げた駒大。その裏に選手との深い信頼関係があった。

 最後は、田澤に聞いた“大八木監督評”で締める。

「僕からすると、最高の指導者としか言えない。あの人以上の監督はきっといないんじゃないですか。他の大学に行ったら、僕はここまで伸びていないと思っているし。その人に合った練習を考えることができて、一人一人をしっかりと見てくれているので。怖い人なんて全然、思ってないです」

 選手が監督を評することに臆することがない。こんなところにも信頼を感じる。

 そして田澤はもう一度、繰り返した。

「だから、僕には最高の指導者としか言えないですね」

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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