女性アスリートも持つ「痩せたい願望」 実は学生レベルに多い「疲労骨折」の理由
スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける「THE ANSWER」の連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。第12回は「利用可能エネルギー不足」について。
連載「女性アスリートのカラダの学校」第12回―「利用可能エネルギー不足」について
スポーツを習い始めたばかりの小学生、部活に打ち込む中高生、それぞれの高みを目指して競技を続ける大学生やトップカテゴリーの選手。すべての女子選手たちへ届ける「THE ANSWER」の連載「女性アスリートのカラダの学校」。小学生からオリンピアンまで指導する須永美歌子先生が、体やコンディショニングに関する疑問や悩みに答えます。第12回は「利用可能エネルギー不足」について。
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低年齢化する日本女性の「痩せたい願望」。これはアスリートも同様です。
特に審美系(新体操やフィギュアスケート)、持久系(陸上長距離)の競技・種目を中心に、「競技力の向上のためには減量が欠かせない」と考える若い選手は多くみられます。「痩せれば速くなる、強くなる、美しくなる」……そんな神話にしばられた結果、女性アスリートたちは深刻な健康問題につながる「利用可能エネルギー不足」を起こします。
利用可能エネルギー不足は「女性アスリートの三主徴」と呼ばれる、3つの健康障害の一つです。
利用可能エネルギーとは、「食事によるエネルギー摂取量」から「運動によるエネルギー消費量」を引いたエネルギー量のこと。ハードなトレーニングを重ねるアスリートの場合、日々、運動で消費する以上のエネルギーを摂る必要がありますが、十分な食事が摂れない、もしくは、食事はしっかり摂っていても、運動量が多すぎて追いつかないときに、利用可能エネルギー不足に陥ります。
また、利用可能エネルギー不足は、「女性アスリートの三主徴」を引き起こす根本原因でもあります。この状態が続くと、生理が止まり、健全な発達や代謝機能、心臓や血管の働き、骨の成長、さらには精神面への悪影響をもたらします。そして、結果的にはスポーツパフォーマンスを低下させてしまうのです。
利用可能エネルギー不足のエピソードといえば、今年の2月、女性アスリート健康支援委員会が開催したセミナー「Female Athlete Conference 2020~女子選手のヘルスケアを考える~」で聞いた、女子マラソン元日本代表の原裕美子さんの話が思い出されます。
原さんは実業団チームに入ってまもなく、過食と嘔吐が始まり、現役を引退する翌年まで、約17年間、生理が止まっていたそうです。また、疲労骨折や恥骨の骨折を繰り返し、2010年、故・小出義雄監督のチームに移籍するまで、骨がスカスカ(骨粗しょう症)になっていたのも気づいていなかった、とのこと。骨だけでなく歯も弱くなり、ボロボロになってしまったという話には、非常に衝撃を受けました。
当時は1日何回も体重計に乗り、体重ばかりをグラム単位で気にしていた、という原さん。最初は速く走るために体重を落とそうという気持ちでいたはずが、いつの間にか体重を落とすことが目標になってしまった。その結果、エネルギー不足になってしまったのだろうと、話を聞きながら感じました。