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苦闘、批判…ラグビー世界8強奪還への萌芽の検証 司令塔が物足りぬ新生日本代表で評価すべき才能

敵防御のギャップを思い切って突いたランをみせた松永拓朗【写真:JRFU提供】
敵防御のギャップを思い切って突いたランをみせた松永拓朗【写真:JRFU提供】

代表初先発のSO松永拓朗が残したインパクト

 その一方で、勝利を諸手を挙げて喜べない現実もある。試合後のFL下川甲嗣(東京サントリーサンゴリアス)の言葉が、偽りのない、このゲームの負の側面を物語っている。

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「ディフェンスのコネクション(連繋)では、自分たちの中でのコミュニケーションが上手くいってなかった。そこを突かれるシーンがあったので、残り1週間で取り組んでいきたい。自分自身が前を見て得た情報をしっかりと判断して、1人ひとりがディフェンスするようなところのクオリティーを、イングランド戦ではさらに上げていきたい」

 下川が指摘する連繋の悪さは、試合開始8分の相手の先制トライまでの防御の不安定さに表れている。ウルグアイのハイパントへの反応や、落下地点周辺にいた選手間のコミュニケーションが不十分で相手にボールを確保されたのを起点に、モメンタム(攻撃の勢い)を作られるとLOワーナー、WTBナイカブラという、既にコアメンバーとなっている選手が相次いでタックルを外されてインゴールを明け渡している。

 後半折り返し間際にも、スコアチャンスだった敵陣22m付近のラインアウト失敗によるウルグアイのスクラムから、3回の防御突破で自陣22m内まで一気に攻め込まれる脆さを見せている。相手の不用意なキックで失点こそ免れたが、セットプレーから防御を破られ、陣形が定まらないアンストラクチャーな状況での組織防御の弱さは、世界トップ10圏内のクオリティーには到底及ばない。

 会見で言葉を続けた下川の「タフな時間帯を作ってしまった要因は、FWではセットプレーから相手にモメンタムを与えてしまったシーンが幾つかあったこと。イングランド戦へ向けては自分たちの強み、相手の強みをしっかりと分析して、どう戦っていくかを詰めていきたい。自分たちがコントロール出来る反則のところも、ウルグアイ戦の前半にいくつか課題があったので見直さないといけない」という指摘が、最終戦へ向けた金言になりそうだ。先制失点の一因にもなった相手キックに対する反応、連繋の悪さは、前半12分のハイパント処理ミスや、20分のPGに繋げられた防御ライン裏へのショートパント、そしてアクシデンタルな不運さもあったが、前半終了直前のSH齋藤がシンビンになったキックボールへの防御の不備でも顕著な課題だ。これらのキックへの対応の拙さから2PGを許したことは、次戦で戦うイングランドもしっかりと見届けているはずだ。

 最後に1人の選手について触れておきたい。SOで初先発した松永のパフォーマンスについてだ。試合後からファンレベル、ラグビー関係者らとのやり取りでは、4度のコンバージョンを外したプレースキックへの厳しい指摘は少なくなかった。確かに、日本が上位国に勝つためには、相手に喰らいつくような試合展開が不可欠になる。国内では容易に決めている角度、距離からもコンバージョンは1度も決まられなかったことは、キッカーを務める選手にとっては大きな失点だ。

 だが、このゲームで代表初先発の司令塔が見せた、敵防御のギャップを思い切って突いたランは、キックの不出来を認めながらも特筆するべきものだった。怪我で代表を離脱した、同じ天理大の先輩、立川理道(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)が精度の高いパスでラインを動かしたのに対して、松永はアグレッシブに仕掛ける司令塔としてのキャラクターでインパクトを残した。

 先にも触れた後半12分の逆転決勝トライに繋がる左サイドを突いたアタックや、終了直前のライリーのトライを生み出した自陣からの右サイド突破の独走など、好判断からの鮮やかなランを何度も見せていた。ゲーム、特にアタックをオーガナイズしていける司令塔の物足りなさが続く新生日本代表だが、代表3キャップ目ながら、明確な強みをテストラグビーで発揮できた才能こそ評価するべきだろう。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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