脆すぎる防御…10トライ喫した新体制ワースト「19-64」の完敗 ラグビー日本が世界一3度のNZから得た学び
以前のコラムで紹介した日本代表のパス回数の多さだが、世界的なラグビー情報サイトで現在は統括団体ワールドラグビー傘下に加わる「Rugby Pass」のデータを参照すると、8月までの7試合では1試合平均186回のパスをしていた日本は、今回のNZ戦ではシーズン最多の220回のパスをしながら、3トライしかマーク出来ずに完敗を喫している。ちなみにNZは216回と、ほぼ同じパス回数で10トライをしていることになるのだが、日本のトライの少なさの要因の1つには、オールブラックスの強固な防御力がある。
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両チームのタックル回数をみると、通常は攻められている敗者のほうが多いのがセオリーだが、この試合では日本の143回に対して勝者のNZは209回のタックルを記録している。タックル成功率では、80%以上が勝利するための基準になるが、日本が76%だったのに対して勝者は90%という高い数値を残している。日本が200回を超えるパスで攻めても、オールブラックスは190回近いタックルを成功させて応戦したことが、わずか3トライという結果に反映されている。
日本代表はエディー体制以前からアタックを強みとするチームとして強化を進めてきた。この伝統はこれからも継承するべきだろうが、オールブラックスのこの試合での戦いぶりをみれば、勝つために大事な事は攻守両面でしっかりと必要なスキルやフィジカリティー、そして判断力というインサイドワークも身に着けて準備する事だと判る。この大敗からは、改めて日本が積み上げていくことの多さを痛感させられるが、フランス、イングランドらとのシーズン最後の挑戦で、この日の「学び」を積み上げることが出来るかに注目するしかない。
日本代表の課題と学びにスポットを当ててきたが、最後に1点だけ収穫にも触れておこう。
先にも紹介したが、オールブラックスの両PRは共に体重140kg、身長も190cmを超える破格のコンビだったが、先発メンバー同士のスクラムでは、日本はしっかりと組み合うことが出来ていた。
参考までにFW8人の平均では、日本の189.4cm、112.5kgに対してNZは192.0cm、118.6kg。サイズやパワーでは劣っていた日本だが、右PRで先発した竹内柊平(浦安D-Rocks)は、スクラムの出来栄えをこう語っている。
「この日のスクラムは、僕個人としてもチームとしてもかなり自信になると思います。体重差は明らかだったが、8人で準備してきたものが出せた。フロントローだけじゃなくて、バック5もすごくいい押しをしてくれたので、相手はすごく苦しかったと思います。僕らは相手とすごく近い位置で組もうとしています。海外のチームは、体が大きいので絶対嫌がるんです。僕らはその距離で組んできましたから、合宿で仲間と組んだ方が苦しかったですから」
NZ同様に、日本が強豪国と戦うときは、ほぼ全てのチームが自分たちよりサイズで上回る相手ばかりだ。そんな大きなFWに対して、日本は、通常のスクラムよりも相手と組み合う前の間合いを詰めて、低い姿勢で組もうとしている。竹内の言葉からもわかる通り、組み合う直前に相手にスペースを与えないことで、サイズが大きな相手に、自分たちの強さ、重さを十分には出させないことを狙っている。このような組み方をレフェリーがどこまで認めているのかは今後のレフェリングに注目したいが、竹内に聞くと試合中にNZのFWからは、(日本が)間合いを詰め過ぎているという指摘が何度もあったという。その一方で、レフェリーから日本の組み方には注意や文句はなかったという。
ここは、今季現役を引退したばかりのNZ代表108キャップを誇るオーウェン・フランクス・アシスタントコーチの功績だろう。FWメンバー1人ひとりと個別にミーティングを行い、個々のスクラムを組む姿勢や癖などにアドバイスを送り、8人が低く一体感を持って組むセットを構築し続けている。これから始まる、NZ以上にスクラムに拘りを持つ欧州強豪との組み合いで、どこまで安定したスクラムを組み、プレッシャーを掛けることが出来るかも、3年後への最高のチャレンジになるはずだ。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)