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「大谷翔平を思い起こして下さい」の真意 ついに初勝利も…熟成途上露呈したラグビー日本代表の課題

世界21位相手でも接点で重圧をかけられると苦戦を強いられ…

 スピードのある日本の連続攻撃を意識するあまり、前半のカナダは接点でのボール争奪戦に人数をかけずに次のフェーズに備えた防御ラインをしっかりと準備することを意識していた。密集戦への参加を見切る選手が目立っていたのだ。その結果、ブレークダウンでソフトな圧力しか受けなかった日本が密集からの速い球出しを出来たことで、藤原が指摘したようなスピードのある連続攻撃から前半の5トライを積み重ねることが出来た。ここまでのテストマッチ3試合では、立ち上がりこそスピードを見せても、開始15分、30分と経過する中で重圧を受けてしまい、結果的に前半は1試合平均0.67トライしか奪えていない日本代表が、これだけの大量トライをマークして優位に立てたのは、カナダの防御プランに負う部分が大きかった。

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 後半に苦戦を強いられたのも、カナダが前半以上に接点で日本に重圧を掛けてきたことが大きく響いた。イングランドやジョージアが前半途中で対応してきたことを、カナダは前半終盤からし始めた。見方を変えれば、世界21位のチーム相手でも、接点で重圧をかけられると苦戦を強いられるのが、いまの若い日本代表のフィジカリティーだ。

 主導権を握って攻め続けた前半の日本代表にも、気懸かりな部分は目についた。ここまでの3試合から変わらない安易なハンドリングミスの多さだ。アタック機会が多ければミスの回数も増えるものだが、前半18分のミッドフィールドでのスクラムからの右展開、同33分の中盤での左展開では、簡単なパスミスであわや切り返されてのトライになりかねない窮地を自分たちで作り出し、37分の左展開からの連携ミスによるファンブルでは、実際にカナダにトライを奪われている。

 精度の悪さについてエディーは「勝っている場合には、どうしてもイージーなことをしがちになってしまう節があると思う。ランをしたいとか、パスをしてスペースにどんどん入り込んでいきたいという思いがあったのだろう。しかしながらテストラグビーでは、基礎的な部分を丁寧にやり切らないといけない。後半はディフェンスで上手く出来なかったところがあった」と指摘。確かに後半も、12分の中盤左展開でのファンブル、それに続く自陣ゴール前でのキックチャージ、25分のラインアウトからの右展開でのパスミスと精度という課題は最後まで続いた。「そういったプレーが、どうしてもつまらないミスだったり、ペナルティーに繋がってしまったと思う。チームには、今後へ向けていい学びになったと思う」と指揮官は課題を指摘したが、前半3だった反則数が後半9へと激増したことも後半の苦戦を物語る。

 6月のチーム始動からすでに6週間を超える強化を続けてきた。だが、メンバーには代表経験値の低い選手が多く、その中でカナダ戦でも初キャップとなったCTBニコラス・マクカラン(トヨタヴェルブリッツ)のように、メンバーの入れ替えも顕著だというチーム事情も、プレー精度が上がらない要因だろう。エラーシーンを見ると、前半39分のFB矢崎由高(早稲田大2年)のキックカウンターのように、ギリギリまで自分でボールを持ち込んでのオフロードパスが繋げられないなど、エディーが指摘する「ボールコントロールが上手く出来ない」プレーが未だに目立つのがチームの実情だ。

 これまでも指摘してきたが、個人のスキルとコンビネーションの未成熟による精度の低さやミスは、時間をかけて仕上げていくしかない。指揮官も、テストマッチを「絶対に勝つ」と繰り返しながらも、リアルな新生ジャパンの現状をこう指摘する。

「我々が目指す集団的にプレーをするというところに関しては、パスごとにコミュニケーションが必要ですし、アタックラインでもパス1つ1つの精査が必要だということが課題に挙げられます。これを80分間やり続けることが目標ですが、しばらくはフルタイムやり続けることはどうしても難しい部分もあるかも知れない。選手ごとの関係性を密なものにしていかなければいけないし、連携も深めないといけない」

 エディーが掲げる超速ラグビーが、個々の選手のスピードに止まらず、判断や組織として動くことの速さまでも求めていることを踏まえれば、選手に求められることは必然的に増えていく。プレーの癖はもちろんだが、性格面まで知り尽くして、80分間の中でどうコミュニケーションを速め、よりスピーディーな組織プレーを体現できるのか。この磨き込みこそが、いま日本代表が取り組んでいるものであり、PNCでの課題になる。日本はこの後、米国戦(9月7日、埼玉・熊谷)から準決勝(順位戦)、決勝(最終戦)とPNCで3試合が残されている。対戦相手は順次実力のあるチームになるが、それでも最高位はフィジーの10位レベル。互角ないしそれ以上に戦える相手との戦いは、勝敗以上にプレーの精度も含めてどこまで組織として一体感、完成度を高めることが出来るかがテーマになる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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