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17-52大敗から見る第2次エディージャパンの肖像 開始4分満たずに機能した「超速」の可能性と課題

コストリー、矢崎由高ら新しい戦力にも収穫

 宮崎合宿中のコラムでも紹介したように、2人のレジェンド以外にも指揮官は世界中からエキスパートをコーチとして招いている。タックル技術が進むリーグラグビー出身のニュージーランド(NZ)人、デイビッド・キッドウェルにディフェンス担当ACを任せ、同じNZ出身で昨季リーグワンを制したBL東京のアタックコーチを担ったダン・ボーデンも招聘。このコーチ陣を、イングランドの強豪バースでコーチを務め、エディーのイングランド、オーストラリア代表時代も右腕として補佐してきたニール・ハットリー・コーチングコーディネーターがまとめ役を担う。総キャップ数318(1人平均9.1キャップ、5月30日発表時)と国際経験の乏しいチームを、経験豊富なコーチ陣が強力にバックアップする体制を整える。

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 新しい戦力についても収穫はあった。以前に紹介したティアナン・コストリー(コベルコ神戸スティーラーズ)は、スピードや運動量が求められるオープンサイドFLで代表デビュー。開始6分には、持ち前の快足を生かすためにタッチライン際にポジショニングすると、パスを受けてイングランドCTBオリー・ローレンスをスピードでかわしながら22mラインを突破。高校時代の後輩でもあるFLチャンドラー・カニンガムサウスにぶちかまして相手の反則を誘うなど、持ち前のアグレッシブさを発散した。

「キックオフはもちろん緊張しました。国際試合のデビューだから。でも、神戸でもブロディ・レタリック、アーディ・サベアらファーストクラスの選手と練習してきたから、自信をつけてきました。最初の10、15分くらいは、すごく相手にプレッシャーをかけられたし、あのテンポでずっと続けることが出来れば、どの相手でも追い付けないと思う。こういう経験を積んでいけば、本当にいいチームになれると思います」

 ラグビー専門サイト「ラグビーパス」のデータでは、ボールキャリー(ボールを持って前進する回数)は6回と、同じFLで先発したリーチの17回に及ばなかったが、走行距離22mはリーチの26mに負けていない。タックル成功回数ではリーチの11回を上回るチーム最多の12回をマークするなど、防御面でもアピールした。コストリーを抜擢したエディーも「すごく良かった。BKとFWのハイブリッドタイプの選手で重宝な存在だ。とてもポテンシャルを秘めていて、今後も重要な存在になると思う」と称えている。

 同じく注目のデビューを飾ったFB矢崎由高(早稲田大2年)も、ランニング回数、走行距離でトライゲッターのWTBジョネ・ナイカブラ(BL東京)に並ぶ数値をマークしたが、決定的なチャンスが作り出す場面はなかった。後半14分に、好サポートから創り出したあわやトライの好機は、相手選手の結果的にシンビン(10分間の一時退場)となる妨害プレーで逸したが、持ち併せる抜群の加速力や、相手のギャップを見抜き、そこへ切れ込むランなどは、まだまだこの日のレベルではないのは明らかだ。

 期待の若手と持てはやされるが、試合後に本人が「イングランドのプレッシャーのあるディフェンスをかいくぐることが出来なかったが、チーム全体としては、速くセットして、モメンタム(勢い)を作ってラグビーすることは少し出来たかなと思います。プレーの判断や予測の部分で、これから経験値を積んでいきたい」と冷静に振り返っているのが、この先の成長への期待だろう。

 他にも、途中出場ながら相手キックを読んだカバー防御やイングランドFWへのジャッカルで気を吐いたSH藤原忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、20分間の出場で6回のタックルを成功させたFL山本凱(東京サントリーサンゴリアス)など初キャップ組が持ち味を見せた。代表合宿でも取り上げたFB山沢拓也(埼玉ワイルドナイツ)は、試合当日のメンバー変更での出場ながら、自陣からのカウンター攻撃で、持ち味のスペース感覚と巧みなステップで防御をかわし、後半29分には防御を抜け出したLOディアンズに素早く反応した好サポートからトライを決めるなど閃きを見せた。

 17-52というスコアを見ると、昨秋のW杯での12-34以上の大敗だったが、細かなデータでは変化の兆しもある。地域支配率は昨秋の38%から43%に上がり、ボール保持率も34%から47%と、接戦の数値になっている。ボールキャリー回数でも、W杯では74対138でイングランドを下回ったが、今回は119対104で上回った。戦術的なキック回数は、イングランド戦では常に相手が多い傾向だが、日本代表の数字を見るとW杯の37回から17回と半分以下に減少。キック・パス比率も同様に1:4から1:9.9と、従来以上にキックを封じてパスを多用するスタイルが浮かび上がる。もちろんパス回数自体も昨秋の96から168と大幅に増えている。

 ゲームを細かく見ていくと、プレー面、データ面で「超速」の萌芽が見えてきたイングランド戦。そこを、どう組織としての連携、完成度を高め、スコアに繋げるかというテーマが大敗から浮かび上がった。イングランド戦に続くマオリ・オールブラックス戦2試合(6月29日、7月6日)は、若手中心のジャパンXV(フィフティーン)名称で挑むが、そのスコッドメンバー29人にはイングランド戦から13人も加わっている。若手育成という目的もあるが、むしろイングランド戦に続く代表強化として注目の戦いが続く。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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