「2度と一緒にやりたくない」陰口もある妥協なき指導 “劇薬”エディー・ジョーンズと日本ラグビーの課題
ラグビーで9年ぶりに日本代表復帰が決またエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)。賛否渦巻く中での就任だが、会見での言葉、そして1996年から取材してきた経験から、この指導者のコーチとしての資質や課題も浮かび上がる。貪欲ともいえるほどの旺盛な学びへの欲望と、妥協のない選手、スタッフへの注文に「2度と一緒にやりたくない」という陰口もある熱血漢。後編では、指導者としてのバックグラウンドを辿りながら、これから着手する第2次エディー・ジャパンの可能性と課題を考える。(文=吉田 宏)
ラグビーライター・吉田宏氏が見た第2次エディー・ジャパン後編
ラグビーで9年ぶりに日本代表復帰が決またエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)。賛否渦巻く中での就任だが、会見での言葉、そして1996年から取材してきた経験から、この指導者のコーチとしての資質や課題も浮かび上がる。貪欲ともいえるほどの旺盛な学びへの欲望と、妥協のない選手、スタッフへの注文に「2度と一緒にやりたくない」という陰口もある熱血漢。後編では、指導者としてのバックグラウンドを辿りながら、これから着手する第2次エディー・ジャパンの可能性と課題を考える。(文=吉田 宏)
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「ラグビークラブに行くときには、毎日必ず昨日の自分よりもいい選手に成長しようと考え、練習に臨んでいた」
エディー自身から、現役時代のそんな思い出を聞いたことがあった。タスマン島に生まれ、父親の仕事でシドニーに引っ越したエディーだったが、現役でのキャリアはニューサウスウェールズ州代表止まりで終えている。どうしてもなりたかったオーストラリア代表まで手が届きそうになりながら果たせなかったが、日本の高校や大学の部活で、毎日本気でエディーのような向上心を持ち続ける選手が何人いるだろうか。
エディーがプレーした時代、オーストラリアは1970年代に撤廃された白豪政策と呼ばれた差別的な価値観が残っていた。タスマニアからシドニーにやって来た日本人とのハーフで身長170センチ台の小柄なHOにとっては挑戦の繰り返しだったはずだ。ランドウィックでは活躍しても“小兵HO”という見方は終始変わらない。向上心だけは人一倍なのに、夢を掴めなかったという経験が、指導者としての頑迷さと妥協のなさの背景にあるのは間違いない。
求めるコーチの姿について聞いた話も、エディーの価値観やコーチ像をよく示していた。日本人コーチがなかなか育たない現状を、現イングランド代表HCで、当時はエディーの下でアシスタントコーチを務めていたスティーブ・ボーズウイックの行動を引き合いに出すことがあった。
「スティーブンがコーチとしてのキャリアを始めようとしていたときに、マットフィールドから学ぶために自腹で航空券を買い、南アフリカまで行っていた」
ビクター・マットフィールドは南アフリカを代表する名LOで、引退後はFWコーチとして手腕を振るっていた。ラグビーの母国イングランド代表で57キャップを持つボーズウィックが、プライドを投げ捨ててライバルチームの伝説のLOに会うために自費で渡航して学ぼうという姿勢。エディーは、こんな行動をしてまでスキルアップしようという意欲を持つ日本人指導者がいるのかを疑問視していたが、逆にこの話からはエディーのコーチとしての姿勢さが読み取れるものだった。
旺盛で、いい意味で貪欲な姿勢でコーチとしての経験値、手腕を上げていったHCにとっては、周囲のスタッフ、選手の取り組みが十分に満足できないのもやむを得ないことかも知れない。イングランド、オーストラリア代表HC時代も、多くのスタッフがチームを去り、また新たな人材が加わる新陳代謝を繰り返してきた。
だが、もし正式に日本代表HCに就任する2024年1月から次回W杯まで残された3年という時間で、いままでのような激しい代謝が繰り返されるとしたら、組織としてのリスクは十分にあるだろう。エディーのことだ。満足できない人材はバッサリと切り落とすことも十分に考えられるのだが、HCの要望に沿える人材を集めることと、組織として機能性を維持できるかという、1つ間違えると谷底に落ちかねない危険な稜線を歩くことにもなる。
次期指導者選定の最終候補はエディーのほか、クボタスピアーズ船橋・東京ベイを率いるフラン・ルディケHC、元ヤマハ発動機などで選手、コーチ経験を持つタバイ・マットソンの3名だった。その中で、選定委員の1人でもある日本協会・岩渕健輔専務理事は、代表強化についてのプレゼンテーションでエディーが他の候補よりも高く評価されたと説明している。会見でエディーは、この強化プランの3つの大きなポイントにも言及している。