日本ラグビーは「世界トップ10でも恵まれている」 協会専務理事が代表新HCに求めることは?
情報分析で「世界を上回らなければいけない」
日本のラグビースタイルや強みを踏まえた上で、データとして浮かび上がる防御などの課題をどう改善していくか。これが新HCにも求められるものになるが、そのためにはHC1人の才能や手腕だけではなく、有能なスタッフを集め、いかに活用できるかというマネジメント力も指導者の重要な資質になる。
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「ラグビーももちろんですが、現代の様々なスポーツは、HC1人でやるものじゃない。例えばある問題が浮上した時に、それをどうやって強化するのかというのは1人で全部できるわけじゃない時代を迎えています。必要なものをチームが得るためには、どういうコーチ、人材を入れるのかとか、あとは時間が限られている中で、全体の練習時間におけるそれぞれのメニューの時間配分なども大事です」
選手はもちろんだが、代表スタッフ、そしてチームをどうマネジメントしていけるかが、これからのHCの資質と考えるのと同時に、専務理事は代表強化のために必要であれば国内特別ルールの導入なども視野に入れている。代表強化のためにはどのようなルール変更が必要なのかも含めて、日本国内でのラグビーの在り方自体に踏み込んでいけるような指導者を求めている。
「例えばリーグワンの中でのルール変更とか、国内のラグビーをどうHCとも連携して考えていくかも非常に重要になる。なので、今回のW杯でのトレンドをどのように考えて、次の4年後がどうなるかをどのように見据えているかが、すごく重要になると思います」
今回のW杯では、データの逆転現象が注目されていた。従来ならチームが優位に立っている判断材料に使われていたパス回数や、攻撃のために何メートル走ったかという数値が、敗者のほうが上回っているというケースが多かった。防御優位という流れの中で、何度攻撃を仕掛けても有効な前進ができないというシーンが増えているからだ。勝つために重視する数値の項目自体を見直す必要が生じているのだ。
「それは、本当にそうだと思います。データの出し方とかを変えていく必要もあるでしょう。今のトレンドとかをどうやって正確に理解しているかということと、チームもデータをどう使うかということが問われる時代になろうとしています。そこはHCの力も重要ですけれど、いわゆるアナリストと呼ばれる人たちが選手のパフォーマンスをどう分析するか、数値化するかが重要です。このような情報分析、情報戦は、おそらく今後は日本のラグビーが世界を上回るポイントにならないといけないと思っています」
データ分析に長けた人材は、場合によってはラグビーの世界に止まらず、統計学、数学などのエキスパートが求められる可能性がある。
「その通りだと思います。それはもう必ずしもラグビーのエリアにいなくてもできると思います」
ラグビーは、経験値やハイレベルなゲームが代表強化に欠かせないのと同時に、岩渕専務理事が指摘するように、直接競技とは関係のないデータ分析の専門家が重要な役割を果たすような時代を迎えつつある。そうなれば、南アフリカやニュージーランドのような、いわゆるラグビー先進国ではない日本でも、世界に負けない人材を確保できる可能性はある。
このようなデータ、情報戦も含めて、日本代表が世界トップレベルの国々と定期的に戦えるチャンスが訪れようとしている。ワールドラグビーがW杯期間中に発表した南北半球のトップ12か国が隔年で対戦するトーナメントだ。後編では、この大会がようやく正式決定した背景や、まだ確定していない日本代表参入への協会としての戦略、そして大会参戦の意義や狙いを専務理事に聞く。(後編へ続く)
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)