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「俺は詐欺師だ」 スポンサーを裏切った東京五輪敗戦、再起のアマボクサー岡澤セオンに吹いた逆風

アマチュアボクシングの2021年世界選手権男子ウェルター級(67キロ以下)金メダルの岡澤セオン(INSPA)が、「THE ANSWER」のインタビューに応じた。アマアスリートながら、自らかき集めたスポンサー収入で活動する27歳。アマ初の「プロのアマチュアボクサー」として2021年東京五輪にも出場した。

東京五輪2回戦を戦う岡澤セオン(右)、まさかの敗戦でメダルに届かなかった【写真:Getty Images】
東京五輪2回戦を戦う岡澤セオン(右)、まさかの敗戦でメダルに届かなかった【写真:Getty Images】

アマチュアボクシング・岡澤セオン&原田周大インタビュー第2回

 アマチュアボクシングの2021年世界選手権男子ウェルター級(67キロ以下)金メダルの岡澤セオン(INSPA)が、「THE ANSWER」のインタビューに応じた。アマアスリートながら、自らかき集めたスポンサー収入で活動する27歳。アマ初の「プロのアマチュアボクサー」として2021年東京五輪にも出場した。

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 今年10月のアジア大会ライトミドル級(71キロ以下)を制し、ボクシングでは来年パリ五輪代表第1号に。同じく代表内定した男子フェザー級・原田周大(専大)を含めて全6回でお送りする。第2回は、岡澤が東京五輪で喫した失意の敗戦から世界王者となり、アジア大会でパリ五輪代表に内定するまでを明かす。階級区分変更の煽りを受けたが、アマボクシングの“聖地”で価値観を一変させられた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 理想と現実のギャップに打ちひしがれた。自らの営業活動で約20社のスポンサーを集め、迎えた東京五輪。岡澤は2回戦で敗れた。のちに金メダルを獲得した相手に2-3の判定負け。宣言したメダル獲得には遠く及ばなかった。活躍を約束して資金を募ったからこそ、自責の念に駆られる。

「裏切ってしまった。もう人前に出たくねぇ。誰とも顔も合わせたくない」

 コロナ禍の規則により、自分の試合が終わればすぐに選手村を出ないといけない。試合翌日の昼前には都内のホテルに移動した。代表選手といえど、もう試合会場に入れない。入江聖奈、並木月海、田中亮明のメダル獲得はテレビで見守った。「俺のオリンピック、もう完全に終わったんだ。さっきまで俺もそこにいたのに」

 五輪との繋がりを完全に絶った。大会ダイジェストはもちろん、競技にかかわらずオリンピアンがテレビに映った瞬間、すぐにチャンネルを替えた。「東京五輪の試合を一つも見たことがない。だから、メダリストが誰なのかもわからないです」。バラエティー番組、イベントに引っ張りだこだった入江の存在には嫉妬もあった。

「あいつがいたからアマチュアボクシングもかなり大きくなったところもあるので、凄いなと思うんですけど、そこに俺が立ちたかったなという想いはもちろんありました。アマチュアボクシングをやっていて、東京五輪まであんなに人から応援される経験がなかった。スポンサーさんはもちろん、世の中の人からも。人生で一番しんどかった時期かもしれない」

 やり切れない想いをぶつけたのが2か月後の世界選手権。「東京五輪で裏切ったという気持ちが大きかったので、焦っていました。もう世界選手権を獲らないと、『俺は詐欺師だ』と思っていて」。背水の陣から世界一に。バンタム級の坪井智也とともに、同じ日に日本人初優勝の快挙を成し遂げた。

 薄氷を踏む思いで臨み、重圧を乗り越えたからこそ思う。「アスリートだけ詐欺が許されている感じがしないですか?」と。

「実際そうじゃないですか。自分もできていないのですが、『応援してください。勝ちます』と言って勝てない。でも、『頑張ったよね』って言ってもらえる。やっていることは詐欺じゃないですか。アスリートだけそれが許されるのはおかしい。だから、僕はかなり焦っていました。『やばい! 俺、お金もらってどうすんの?』みたいな。

 年間でいただいているので、パリ五輪を考えるのではなく、『今年中に何かしないといけない』って。凄く焦りがあったので、世界選手権まで本当に頑張りましたし、金メダルが獲れた時は『やったー!』よりも、『よかった~! とりあえず、また来年もボクシングができる』という感じでした」

 実際には勝つことが全てではなく、負けても血の滲む努力が人の心を動かすことがある。だが、岡澤は自ら営業活動をしただけに人より強い責任感を持つ。

 パリ五輪でさらなる恩返しを。世界一で自信をつけたが、再び逆風が吹いた。22年3月に五輪の階級区分が正式決定。67キロ以下のウェルター級がなくなり、岡澤は63.5キロ級と71キロ級の選択を迫られ、上の階級への挑戦を余儀なくされた。

 ここから負けに負けまくった。もともと相手との距離を上手く使い、パンチをよけながら自分のパンチを当てるアウトボクサー。新階級では今までより体が大きく、リーチの長い選手のパンチを浴びる回数が増えた。「一番の武器が距離の攻防。自分の一番の武器を信じられなくなった」

「何か変えないといけない」と体が小さい分、パワーをつけて対抗する方針にシフトした。フィジカルコーチのもとで肉体強化。足を止めてパワーパンチを打ち込む練習を繰り返した。

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