日本人分析班は「本当に優秀だった」 J1神戸の元コーチ、感銘受けた名将のチーム管理術
Jリーグ創設から今年で30年、今や両手で数えきれないほど多くの選手が若くして欧州トップレベルのリーグに挑むなど、日本サッカーは着実に前進し続けてきた。一方で、指導者やクラブ経営などの分野に目を向けると、歴史ある欧州サッカー界の知見を持つ日本人はまだ限られているのが実情だ。1990年代に16歳でドイツに渡り、オーストリアで指導者となったモラス雅輝氏。その後Jリーグの浦和レッズとヴィッセル神戸でコーチを務め、現在はオーストリア2部ザンクト・ペルテンでテクニカルダイレクターを務めている。最終回では、これまで多くの名将の下で仕事をしたことで得られた財産やJ1神戸時代の経験、監督として再びキャリアを歩む可能性について胸の内を明かした。(取材・文=加部 究)
モラス雅輝「欧州視点のサッカー育成論」第6回、J1神戸でのかけがえのない経験
Jリーグ創設から今年で30年、今や両手で数えきれないほど多くの選手が若くして欧州トップレベルのリーグに挑むなど、日本サッカーは着実に前進し続けてきた。一方で、指導者やクラブ経営などの分野に目を向けると、歴史ある欧州サッカー界の知見を持つ日本人はまだ限られているのが実情だ。1990年代に16歳でドイツに渡り、オーストリアで指導者となったモラス雅輝氏。その後Jリーグの浦和レッズとヴィッセル神戸でコーチを務め、現在はオーストリア2部ザンクト・ペルテンでテクニカルダイレクターを務めている。最終回では、これまで多くの名将の下で仕事をしたことで得られた財産やJ1神戸時代の経験、監督として再びキャリアを歩む可能性について胸の内を明かした。(取材・文=加部 究)
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2019年6月、モラス雅輝は9年ぶりにJクラブで仕事をする機会を得た。ちょうどヴィッセル神戸が、ドイツ人のトルステン・フィンクを監督として迎え入れたタイミングだった。
とりわけ印象に残ったのが、神戸の分析チームの有能ぶりだったという。
「楽天がサッカーを好きな社員を募ってデータ分析を託したんです。僕らは彼らを『楽天ボーイズ』と呼んでいたのですが、本当に優秀でした。他のクラブが絶対にやっていないようなデータ分析ができていて、またフィンク監督もそのデータを活用することができた。あれは凄いアドバンテージで、天皇杯制覇にも繋がったと思います。後に欧州へ戻った時に、現地のスタッフに見せたら『レッドブルグループでも、こんなに細かなデータ分析はしていない』と驚いていました」
この経験を通して「僕にとって神戸は特別な場所になりました」と振り返る。
「フィンク監督は上から押さえつけるのではなく、スタッフを信頼し、彼らが能力を発揮して仕事に取り組める環境を整備しました。監督はトレーニングの細かな部分まですべて把握する必要はない。コーチが窮屈な思いで仕事をしていたのでは、選手のためにもなりません。監督は1つの方向性を打ち出したら、後は互いが信頼し合って笑顔になる環境を作る。それが本当のチームマネジメントなんだと思います」
こうして日本人の優秀さを再認識したモラスは、次にヴァッカー・インスブルックで監督をした際にも、分析は東京大学のチームに託していたそうだ。
「オーストリアのリーグ戦なのに、対戦相手の分析などは東大チームが行っていたんです。残念ながら彼らは卒業をしたら、みんなバラバラになってしまいました」