最強の兄・尚弥と比べられた日々「でも、それは百も承知」 井上拓真、努力で掴んだ真の世界王座
ボクシングのWBA世界バンタム級1位・井上拓真(大橋)が8日、東京・有明アリーナでの同級王座決定戦で同級2位リボリオ・ソリス(ベネズエラ)に3-0の判定勝ち(118-110、117-111、116-112)し、悲願の世界王座戴冠を果たした。前世界同級4団体統一王者の兄・尚弥が返上したベルトを奪還。最強の兄と比較される日々もあったが、待ち続けた世界挑戦のチャンスをものにした。戦績は27歳の拓真が18勝(4KO)1敗、41歳のソリスが35勝(16KO)7敗1分け1無効試合。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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ボクシングのWBA世界バンタム級1位・井上拓真(大橋)が8日、東京・有明アリーナでの同級王座決定戦で同級2位リボリオ・ソリス(ベネズエラ)に3-0の判定勝ち(118-110、117-111、116-112)し、悲願の世界王座戴冠を果たした。前世界同級4団体統一王者の兄・尚弥が返上したベルトを奪還。最強の兄と比較される日々もあったが、待ち続けた世界挑戦のチャンスをものにした。戦績は27歳の拓真が18勝(4KO)1敗、41歳のソリスが35勝(16KO)7敗1分け1無効試合。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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血しぶきを上げ、世界王座を掴み取った。拓真は5回に左目上からキャリア初の出血。相手の肘が当たっていた。荒々しく戦い方を変えるベテランに少しずつ対応。磨き上げた巧みなディフェンスでさばき、スピードと技術でポイントを重ねていった。判定ながら王座戴冠。結果がアナウンスされた瞬間、セコンドの尚弥も安堵した様子で拍手を送った。
「兄(尚弥)の弟と言われるのは、現役をやっている以上はついてくるもの。ここで世界王者に返り咲くことができてよかった。試合のテーマが完封することだったので、まず貰わないこと、自分の距離を徹底すること。まだまだ足りないことはあるが、伸びしろはまだあると自分でも感じた」
兄を追い、小学1年から本格的に始めたボクシング。父・真吾トレーナーのもと、2人はリングでも、ロードワークでもいつも一緒だった。「やっぱり、兄が返上した1本目のベルトを獲ることができてホッとしている」。リングで納まった親子の3ショット。尚弥にベルトを掛けてもらった新王者は、無数のフラッシュを浴び、嬉しそうに顔をしかめた。
“真”の世界王者になるまで長かった。2018年12月、WBC世界バンタム級暫定王座決定戦で判定勝ち。尚弥とともに兄弟世界王者になったが、王座には「暫定」の2文字がついた。正規王者だったノルディー・ウーバーリ(フランス)が負傷中で試合ができなかったため。正規王者の下に位置する暫定王者は、本当の意味での世界王者とは見られていなかった。
「早く『暫定』を取り除きたい」
19年11月、拓真は団体内王座統一戦でウーバーリと拳を交えた。しかし、0-3の判定でプロ初黒星。劣勢を打開する技術の引き出しが足りず、暫定王座を手放した。再起後は国内の強敵に3連勝。尚弥がバンタム級で4団体統一を目指したため、拓真は1つ上のスーパーバンタム級に階級を上げた。
地域タイトルを手にし、国内に敵がいない状態までになった。しかし、再起後3連勝はいずれも判定決着。ダウンを奪いながら、仕留めきれない試合があった。
「ナオ(尚弥)ならあそこで仕留める。兄と比べられている以上、そこ(倒しきること)では兄には、まだまだだと差を痛感した。周りの『まだまだ』という雰囲気は伝わってくる。でも、それは百も承知。自分のスタイルを確立させたい。『尚弥の弟』じゃなくて、『井上拓真』の色を」
兄のように一撃で沈めるパワーはない。日本史上最高傑作と称されるモンスターとの比較は酷なこと。だが、尚弥こそが拓真の才能を知る。「小さい頃、拓真は吸収が遅いタイプだったと思う。ただ、それを努力で必死にカバーしてきた。気持ちも強い」。2人でスパーリングをすれば、ムキになって練習にならない。父が止めに入るのが日常茶飯事となり、10年ほど前に兄弟スパーはしなくなった。