10代で第一線を退くフィギュアの年齢規定問題 29歳まで現役生活を貫いた鈴木明子の警鐘
「THE ANSWER」は北京五輪期間中、選手や関係者の知られざるストーリー、競技の専門家解説や意外と知らない知識を紹介し、五輪を新たな“見方”で楽しむ「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」を連日掲載。注目競技の一つ、フィギュアスケートは「フィギュアを好きな人はもっと好きに、フィギュアを知らない人は初めて好きになる17日間」をコンセプトに総力特集し、競技の“今”を伝え、競技の“これから”につなげる。五輪2大会に出場し、「THE ANSWER スペシャリスト」を務める鈴木明子さんは大会佳境を迎えた今だから伝えたい、未来への3つの提言を行う。
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#95 “フィギュア界のこれから”へ3つの提言
「THE ANSWER」は北京五輪期間中、選手や関係者の知られざるストーリー、競技の専門家解説や意外と知らない知識を紹介し、五輪を新たな“見方”で楽しむ「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」を連日掲載。注目競技の一つ、フィギュアスケートは「フィギュアを好きな人はもっと好きに、フィギュアを知らない人は初めて好きになる17日間」をコンセプトに総力特集し、競技の“今”を伝え、競技の“これから”につなげる。五輪2大会に出場し、「THE ANSWER スペシャリスト」を務める鈴木明子さんは大会佳境を迎えた今だから伝えたい、未来への3つの提言を行う。
【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら
第2回は「女子のシニア年齢引き上げ問題」。今大会、金メダル大本命とされたのは今季シニア1年目の15歳カミラ・ワリエワ(ROC)。前回の平昌五輪は同じくシニア1年目の15歳アリーナ・ザギトワが金メダル、銀メダルのエフゲニア・メドベージェワが獲得。しかし、ともに今季公式戦出場すらなく代表漏れ。近年はトップ選手の低年齢化に伴い競技寿命も短くなり、10代のうちに第一線を離れる選手も少なくない。そのたびに議論されるのが、現行15歳以上のシニア大会出場可能年齢。過去に17歳引き上げも国際スケート連盟(ISU)で検討されたが、実施には至らず。
現役時代、大学1年生の時に摂食障害を経験し、シーズン中の無月経など女性特有の健康障害とも闘いながら29歳まで競技を続けた鈴木さん。トップ選手の低年齢化が進む今、女子選手の競技寿命とシニア年齢規定に思うこととは――。(取材・構成=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
◇ ◇ ◇
フィギュアスケート界の女子の現状については「寂しい」。これが、率直な想いです。
今大会はフィギュアスケートの歴史上で最高難度のプログラムが見られる五輪でした。実際、ジャンプは一番の得点源。しかし、この競技には音楽があり、表現も含めてのフィギュアスケートです。どうしても、年齢を重ねるうちにできなくなるジャンプがありますが、年月を経て、積み重ねてきたからこその表現も滲み出てきます。エッジワークなど、ジャンプ以外の技術も同様です。
そうした成長の過程を見るまもなく、一瞬の光のように、ぱっと燃え、散ってしまう。打ち上げ花火のようではなく、線香花火のように長く楽しめる競技であってほしい。それは、選手たちのためであり、ファンのためでもあります。
「あの選手を応援したい」と思い、良い時も悪い時も見続けてくれるのは競技にとって大切なこと。にもかかわらず、今は「あれ、あの子はいなくなっちゃったの?」ということが多い。本来、次はどんなプログラムを滑るのだろうかと“その後”が楽しみになるもの。そうすれば、必然的に長く愛される競技になる。輝きが一瞬で終わってしまえば、興味が薄れるのも無理はありません。
フィギュア界で女子の競技寿命を考える時に議論されるのが、シニア移行の年齢の引き上げです。
これは本当に難しい問題ですが、私は「引き上げてみても良い」という気持ちがあります。もし、上げるなら18歳でしょうか。15~18歳は女性の体つきが一番変わる時期。その3年間に、しっかりとスケート技術の基礎を作ることに重点が置ければ、選手として成熟していくと感じます。
振り返ってみると、1994年のリレハンメル五輪以降、2006年トリノ五輪の荒川静香さんを除き、7大会で10代の選手が金メダルを獲得しています(※1)。それでも、ひと昔前は息が長く活躍する世界的なスケーターが多く、私自身もそんな競技人生を目指していました。今は規定が解禁となる15歳でシニアデビューし、世界で戦えるように育てていく傾向があり、選手や指導者の焦りも出てくると感じます。