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お手本は旭山動物園 プロ化したパナソニックはファン獲得のため「全部見せちゃう」

パナソニックはなぜ強いのか、飯島GMが強調する2つのキーワード

「実は福岡の最後のシーズンでは、勉強や都合で練習できない週もありました。1回も練習しないような場合も。これは、私たちのこれまでの価値観や基準では、たぶんうまくいかないと思うんです。一番いい戦力だったとしても、練習してない奴が試合に出るのかという空気感があったり、日本の組織カルチャーって、そういう感覚ですよね。でも、今のワイルドナイツには、人間的に成長できている選手がいるんだと思っています。競争と協調のバランスがうまく取れているんでしょうね」

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 アスリートである限り、競争はつきもの。どんなチームでも、どんなに仲のいい選手同士でも避けては通れない。その中で、飯島GMが現在のチームの中に見出したもう一つの重要な要素が“協調”だった。一見すると、チーム内で協調していくことは、特にチーム競技では当たり前のものと考えられる。だが、ワイルドナイツというトップアスリートが日々鎬を削る組織の中で、監督や他者ではなく、選手一人ひとりが能動的に、仲間の能力を正当に評価、判断出来ているのが、いまのワイルドナイツの強み、チームの深みになっているというのだ。

「すごく難しい部分です。敵に勝つために強化するけれど、そこにはチーム内の競争の原理を作らないといけない。お互いがメンバー入りをかけて日々戦っている。そんな中で、福岡の活躍の背後では、彼と切切磋琢磨してきた選手たちが彼を試合に出すことに協力しているんです。若い頃は誰にも『何で俺は出られないんだ』という思いがあるはずです。そこが無くなったら、組織としては予定調和の空気感になってしまう危険性もある。

 でも今のワイルドナイツは、競争に加えて強調がしっかりと築かれている。そのベースは、ロビー(ディーンズ監督)さんの人間性重視のチーム作りが大きいでしょう。シルバーコレクターと呼ばれた三洋電機は、競争のところはずば抜けて凄かった。レギュラーの2、3人は試合じゃなくて、部内マッチで怪我していましたからね。もちろん競争の部分は、今でも練習でよく出ているし、熱い気持ちの中でやっています。でも、協調という部分では人間的な成長が必要になってくる。そういう成熟した選手がチームにいるのが、今の私たちの強さだと思うんです」

 飯島GMの説く競争と協調の理論をさらに掘り下げていくと、そこには推察する力、想像力が創造するプレーに繋がっていく。同GMが語る合宿の打ち上げでの裏話の中に、その力の源泉を読み取ることが出来る。

 数年前、合宿の打ち上げで、酔った選手が備品を壊してしまい、飯島GMも急遽ミーティングを開いてメンバーにこう説教したという。

「私は、これだけ大勢のメンバーが一緒にいたのに、なぜ『コイツここまで飲んでいたらやばい』と判断し、フォローしてやろうという人が出てこなかったのか、これってラグビーの試合と一緒じゃないかと話したんです。いい時のチームというのは、アイツ、カッとなっているからディフェンスで詰めてしまうかも知れないと思い、ちょっとそこのギャップを気にしておこうと考えたりする選手がいるものです。

 人間ならミスは必ずあります。一緒にいる選手たちは、仲間のいい所も悪い所も、癖も一番わかっている。試合でも、飲み会でも同じで、ミスした人間はたぶん同じミスを何回かするんですよ。そうしたときに、周りがどう判断して、どう動くのかが重要になる。いまのワイルドナイツは、防御にギャップができそうだと、すっと止めにいってくれる選手がいるのが強さだと思うんです。だから、内側を崩されて簡単にトライを獲られないし、難しいところでトライが獲れるんじゃないですかね」

 重要なことは、実はシンプルだ。仲間のこと、相手のことを考えることができるのは、言い換えればいかに想像力を持っているかにかかっている。その想像力のキャパシティは、チームのこと、仲間のこと、そして敵をどれだけ知っているかに比例している。経験値や足の速さ、体のサイズ、筋力などを比べれば、ワイルドナイツと他のライバルチームに大差はない。だが、自分の周囲で何が起きるかという想像力、察知する能力という目には見えないフィールドで、野武士軍団には他チームからのアドバンテージを培ってきたのかも知れない。

 インタビュー時、こちらからの質問とは関係なく、飯島GMの口を突いた言葉が印象的だった。

「皆さんに感じてほしいのは、三洋電機がパナソニックになって、『ラグビーはもうないよな……』という空気感がある中で、12年後に誰がこうなっていると思ったかです。でも、これが現実です。私1人の力でもないし、三洋電機を吸収合併した当時の津賀一宏社長(現会長)らのご協力もあったけれど、それは選手、スタッフ、関係者が、あなたたちの立場でそれなりに頑張って出した結果の集大成が、こういうドラマでもそんな話あるかよというような形になるんだということです」

■飯島均(いいじま・ひとし)1964年9月1日生まれ。東京都出身。都立府中西高から大東文化大に進みFLとして活躍。4年で同大初の大学選手権制覇に貢献。三洋電機でも主将を務めるなど中心選手として活躍して、全国社会人大会決勝でサントリーと引き分けでの初優勝を遂げた95年シーズンを最後に現役を引退。96-99年に監督を務め、2001-03年は日本代表コーチ、05-07年は三洋電機コーチとしてチームの日本選手権初優勝を経験。08年に監督に復帰して、トップリーグ初制覇を遂げた10年に退任。2019年からGM。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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