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「お金の壁」でスポーツをやめる子どもたち 「プレー機会の平等」を目指す米国の動き

家庭の経済状況に左右されず、スポーツができる支援の仕組みも

 子どものスポーツに費やす金額も世帯収入よって異なる。前述した調査とは別にアスペン研究所が調べたものだ。

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 年収10万ドル(約1050万円)以上の家庭では、子どもひとりあたり年間平均1099ドル(約11万6000円)を費やしており、7万5000ドル(約790万円)から10万ドル(約1050万円)未満の家庭では、子どもひとりあたり平均で719ドル(約7万5800円)、5万ドル(約527万円)以下の家庭では平均476ドル(約5万2000円)を使っているという調査結果が出たという。

 費用の内訳は参加登録費、用具、旅費交通費、レッスン費、キャンプなど集中レッスンや合宿レッスン費などだ。中学や高校運動部でも多少のお金がかかるが、学校運動部のない小学生時代や学校外のスポーツはよりお金がかかる。

 有償のコーチの指導を受けようと思えば、お金を払わなければいけない。需要と供給によって指導料金は設定されるから、大金を積んででも、特定のコーチの指導を受けたいと考える人がたくさんいれば、コーチ料は高額になっていく。

 競技レベルの高いより遠くの大会に泊りがけで出場するためには、旅費がかかる。大会は民間業者が開催しているものも多いから、参加費も支払わなければいけない。

 アスペンでは無作為抽出したおよそ1000家庭に調査しているが、1年あたり子どものスポーツに費やした金額が1万ドル(約105万円)を超える家庭もあった。プロのコーチに個人指導を受け、旅費交通費を負担し、大会に出場すれば、1万ドルはかかってしまうだろう。ひとりの保護者でもある私の想定範囲内の金額だ。

 多くの人の予想通り、いや、それより悪い結果だろうが、低所得世帯の子どもは、高所得世帯の子どもの6倍の割合で金銭を理由にスポーツをやめている、とアスペン研究所の調査はまとめている。

 亡きロビンソンさんの娘シャロンさんは「力のある選手には、誰にでも平等にプレーの機会があるべきだ」と話した。しかし、能力を磨く段階で「お金の壁」にぶつかってスポーツを始められなかったり、やめていったりする子どもがいる。

 何かをする機会を肌の色や人種によって制限されないことは法で保障されている。しかし、お金を払えないからという理由で、私的な指導サービス、スポーツ産業がやわらかく排除することは、法的に咎められることはない。また、お金をつぎ込むことで我が子が優位に立てると考え、お金をつぎ込む余裕のある家庭のある限り「お金の壁」はなくならないだろう。

 米国の子どものスポーツに携わる人はこの状況に気づいている。だから、ウォーカーが話すように、家庭の経済状況に左右されず、スポーツができるようにと支援する仕組みもできてきている。

 例えば野球では、メジャーリーグ機構や各球団が慈善事業や地域還元事業として野球のできる環境と指導できるコーチを提供している。

 これらのアカデミーは低所得世帯の多い地域に施設を建てて、無料か、参加費を極力抑えている。野球を指導しても、将来スポーツ選手として生計を立てられるのはごくわずかな人数であることも熟知しており、エリート育成だけでなく、健康で活動的な生活習慣をつけることに主眼を置き、学習補助も行っていることが多い。

 経済的に恵まれ、素質にも恵まれた選手ならば、指導料や大会参加料を支払わなければいけない環境でも育っていく。だから、メジャーリーグ機構や各球団の慈善事業は、経済的に恵まれたエリートを育成のターゲットにしていない。保護者の経済事情によってスポーツする機会を失っている子どもたちに環境を提供しているのだ。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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