故障者が多く、練習もバラバラ…名門・早大を立て直した「花田式」 影響を受けた指導者「衝撃的だったのは…」
先を追わず、地に足をつけた指導が最終的には実を結ぶことに
1年目の夏合宿は、故障者を出さないことを念頭に入れ、強度の高いポイント練習でも極力、厚底シューズの使用は控えるなど、脚筋力アップと基礎的な体力作りに専念した。箱根駅伝の予選会を4位通過し、本戦は6位でシード権を獲得した。
――ベースを築くために、かなり厳しく指導したのでしょうか。
「いえいえ、厳しくはないですね。なぜそうした練習をするのか、選手たちにも説明して、理解してもらったうえで行うようにしていました。私が学生の頃は、ポイント練習がちゃんと走れないと、瀬古さんには怒られるというよりは、『あーダメだな。結果が出なくてかわいそうに……俺は痛くもかゆくもないけど、困るのはお前自身だよ』とよく言われました。今の学生たちに対してそんなことは言ったりしませんが、周りができているのに、自分ができないとメンバー争いで後れを取ることは学生たちも良く理解してるように感じます」
――1年目、どういう点がシード権獲得という結果に繋がったと考えていますか。
「ベース作りを重視していたので、その軸からブレずに、故障者を出さないように取り組んだのが良かったかなと思います。井川(龍人)とか27分台で走れる選手がいる一方、中間層が弱かったので、その層の厚くしつつ、個のベースを上げることが出来たからだと思います」
――1年目は、花田監督の思惑通りに進んだということでしょうか。
「選手層が薄かったので大変な面はありました(苦笑)。長距離は、一朝一夕には速くならないですからね。ただ、一般(入試)で入って来た選手がすごく成長して、強くなってきました。2年前は箱根のオーダーを組むのには、この区間が弱いなというところがあったんです。でも、今は彼らが頑張ってくれたことでベース作りが進み、チーム全体の底上げにもつながりました。選考のレベルも上がってきているので、これまで必ず走れた選手もうかうかしているとメンバーから弾き飛ばされるような状況になってきています」
怪我さえしなければ能力が高い選手がいるので、走れるようになる。先を追わず、地に足をつけた指導が最終的には実を結んだことになる。
――花田監督が指導する上で軸にしているのは、どんなことでしょうか。
「競技力とともに人間力を育成することが大きなテーマとしてあります。早稲田大は、文武両道をモットーとしているので、ただ走るのが速ければいいのではなく、学業もしっかりこなす。引退後の人生の方が長いわけですから社会に貢献する人間を育成していかないといけない。競技者としての成長はもちろん、社会に出ても魅力ある人間を育てていくことを考えて指導しています」
――人間力を育成する上で、どういうところを重視していますか。
「当たり前のことを当たり前にやる、ということですね。例えば、人に会ったら挨拶をする、ゴミが落ちていたら拾う。困っている人がいたら助けてあげる。もちろん自分の普段の生活の中でも脱いだ靴をきちんと揃える、洗濯した服はきちんとたたむとか。私は高校生の時はそういうのができなくて、早稲田大に来て、教えてもらってできるようになりましたが、そういう小さなところから積み重ねていくことが大事かなと思っています」
――早稲田大学には「早稲田人」という言葉がありますね。
「陸上の世界でいえば世界で活躍できる人ということになります。ただ、競技者としてだけではなく、卒業して社会人になった時、『早稲田を卒業した人はしっかりしているね』と言われるような学生を育てたい。上武大の時は、学生が社会人になった時、『駅伝をやっているせいか、しっかりしているな』と言われるような人間になってもらいたいという思いで指導をしていました。結局、人間として成長しないと競技でも伸びていかないので、そこは常に大事にしているところです」
――早稲田大は、体育系の部活は上下関係が厳しく、人間形成の場としては学びが多いと聞きます。
「昔ながらの伝統を引き継いでいるところはありますが、上下関係が厳しいというよりは、目上の人に対して礼節を重んじるという感じでしょうか。練習前にはきちんと整列して、挨拶してから練習が始まりますが、例えば練習中に用事があってコーチたちが先に帰る際も、その場にいる選手たちは姿勢を正して見送りの挨拶をしてくれます。自分たちも学生の頃、先輩がいらした時にはきちんと挨拶をしていました。今もそうした伝統がつづいていることに感動しましたし、そうした気遣いができることは社会に出てからもすごく大切なことなので、これからも学生たちには続けるように指導していきたいと思います」