今も進化する「ノムラの考え」 2軍球団に引き継がれる核心…武田勝が感じた“懐かしさ”の正体

野村監督に気付かされた「ウソをつく練習」とは?
そして「自分を知る」ことが必要なのは、武田監督の経験に基づいている。「練習は平気でウソをつきますよ」と言ってやまない指揮官は、若いころの自分をこう表現する。
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「練習しなかったわけじゃないけど、ただ走るだけ、ただ投げるだけだった。自分を知らない自分がいたから『ウソをつく』という言葉になるんです。本当に自分で研究したりとか、納得するまで追い詰めたりということがなかった」。武田監督の言う「ウソをつく練習」とは、自分に合わない練習のことだ。
そこを変えてくれたのが野村監督だった。出会った当時、武田監督は25歳になるところ。現在のオイシックスの選手と同じ年頃だ。高校や大学でスカウトの目に止まらず、何とかつかんだラストチャンスもあきらめかける年齢だが「それからでもうまくなれるし、考え方一つで生きる道を探せるんです」と言い切る。何があったのか。
「野村さんはコントロール、コントロールと言っていた。それをどう身につけるかといったら、ブルペンなんです。ブルペンがいちばんの仕事なんだって気付いたんですね。限られた時間の中でいろんなことを考えて表現する。まさに“聖域”だと分かったんです」
何のために走り、投げているのか。それはピッチングに活かすためだ。そう考えるよう導かれると、全てが変わった。ブルペンでの投球について、実戦並みに準備をするようになった。
「前の日ぐらいから、こういうことに取り組もう、スライダーを多く投げようとか、チェンジアップをワンバンさせようかなとか……。そういうイメージと、実際の投球を照らし合わせるのが正確なコントロールにつながるというのが分かり始めたんだね。体での表現がボールに現れて。それまでは『今日ピッチングか……』と思っていたのが、なんだか楽しみになったんだよね」
現在の選手は、SNSや動画の情報で様々な練習法に触れられるようになっている。それも武田監督は「いろんなことにトライしてみればいい。合う合わないを判断できること、失敗して自分を知ることの方が大事。合ったらそれはベストですけど、合わなくてもやった過程は無駄ではないと思うので」と奨励している。方法論は変わっても、敵と己を知って戦うという野村野球のエッセンスは生き残り、進化を続けている。
(THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori)