なぜ、指導者に「俯瞰力」が必要なのか 為末大「同じ指導も言葉ひとつで結果が変わる」
バイアスがあることを意識する
私がかつて選手だったとき、強烈に印象に残っている出来事があります。
それは、試合に負けて「やってきた練習の全てが無駄になりました」と話したときのことです。
話した相手は定かではありませんが、確か指導者だったと思います。その発言を聞いた指導者(Aさん)から「無駄になる、ということを厳密に説明してみませんか」と言われ、問答が始まりました。
【指導者(Aさん)の方との問答】
Aさん:「無駄になったというのはどういうことだと思う?」
私:「努力してきた意味がなくなった、うまくいかなかったということです」
Aさん:「うまくいかなかった原因は?」
私:「スタートダッシュが悪かったから」
Aさん:「じゃあ、次はどうすればいい?」
私:「この辺りをこうした方がいいと思います」
Aさん:「今、自分で言ったことはなんだと思う?」
私:「学びですかね」
自分自身、「学び」と答えた瞬間にハッとしました。無駄だと思ったことが実は無駄ではなく、学びだったと気付くことができたからです。これはコーチングによっても選手に気付かせることができますが、指導者がバイアスに対する意識を持っていたからこそ、こうした問いかけをすることができたのだと思うのです。