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指導者の役割は「視点」を与えるだけ 近江サッカー部監督×楽天大学学長のチーム育成論

ピッチへ指示を送る前田高孝さん【写真:森田将義】
ピッチへ指示を送る前田高孝さん【写真:森田将義】

指導者は「視点」を与えるだけ、自分で気付くことで身に付いていく

仲山「育成で大事なことのひとつは『視点を与える』ことだと思います。『視点がないものは見えない』んです。どういうことか、僕の経験でお話しすると……、息子が1歳の時に車に興味を持ち始めたのですが、子ども向けの本は薄くてすぐ飽きてしまうので、『カーセンサー』を渡してみました(笑)。そうしたら夢中で読み始めて、3歳で道路を走っている車の車種をほぼ言えるようになりました。僕も付き合って読んでいたら、車に興味がなかったのに車種がわかるようになりました。その後、名古屋に出張したときに、『名古屋の車はトヨタばかりだ』ということに初めて気付きました。名古屋には何度も来たことがあるのに、今までは車種に対する視点を持っていなかったので気付けなかったわけです。そうやって視点を獲得することで、自分で気付いて考えられるようになります。ただ、視点を教えるよりも、答えを教えたほうが早く結果が出るから、正解としての判断を教えたくなってしまいがちです」

前田「『自分で気付かなかったら身に付かない』ということが仲山さんの本にも書いてありましたよね。教えてできたことはなかなか身に付かないけれど、彼らが自分で気付いたことは身に付きやすい。しかし、何もやらなければ視点がないから気付けない。それぞれの選手が視点を持てるようにしてあげることが育成では大事だと思っています」

仲山「『教えすぎ問題』と『教えなさすぎ問題』というやつですね」

前田「視点も何も教えないままで『自分で見つけてください』と言ったところで、何も見つからないままになってしまうと思います」

仲山「選手が自分たちでチームとして『ふりかえり』ができるような習慣が作れると、学びが劇的に早くなると思います。みんな自分が見ているものが真実だと思っているけれど、みんなそれぞれ見えているものが違ったりしますよね。まずは『自分には何が見えているのか』を共有する習慣を作るだけで、かなりの変化が生まれると思います。見えているものが揃えば、意見が合いやすくなります。裁判と同じだと思っていて、裁判ではまずは証拠を確定してから話し合いをしていきますよね。見えているものを揃えてから、解釈することが大事だなと思っています」

――監督と選手でも同じですよね。伝える側が同じ景色を見せられないと本質が伝わらない。最初から選手同士でやらせるのは難しいと思うけれど、コツがうまく伝わればできるようになっていきますよね。

仲山「映画を観て感想を言い合うのは、『何が見えたか』を事実として切り出して、話をする習慣を作ることにつながります。『サッカーでも同じようにすればよいのか』とみんなが思えるようになれば、うまくできるようになるはずです」

前田「『ふりかえり』会を定期的にやるともっと良くなると思いました。あとは僕らが介入し過ぎると違う話になってしまうので、そこも配慮しながらですね。逆に僕ら指導者は感度が高いものにたくさん接して、拾い出さなければいけないと思っています。生徒には本当に良いものを見せないと時間の無駄になってしまうから、僕らはその倍以上は見てサッカー以外の分野で良いものを探していかなければいけない」

仲山「まさに『イタリアでこんなものを見つけてきたけれどどう思う?』ということですよね」

前田「そうですね。自分が本当に面白い、楽しいと思ったことを見せないといけない」

仲山「イタリアまで行った価値が高まりますね。とても良いと思います。『ふりかえり』をサッカーだけでやると、勝ったときは別にふりかえろうとしないし、負けたときは感情が先に立って話し合いがしにくくなってしまう。普段から話をする3~4人では話すけれど、全体で『ふりかえり』ができているチームは、世の中にほとんどないかもしれません。だからこそやってみてほしいです」

(記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/

■前田高孝/近江高校(滋賀県彦根市)サッカー部監督

 元プロサッカー選手。シンガポールやドイツでプレー経験があり、世界を旅しながら見聞を広める。帰国後は大学サッカー部の指導に携わり、2015年4月より近江高等学校教員・サッカー部監督に就任。2年目にして滋賀県大会を制覇し、全国大会出場。3年目の2018年、高円宮杯JFA U-18サッカープリンスリーグに昇格。

■仲山進也/楽天株式会社楽天大学学長・仲山考材株式会社代表取締役

 創業期(社員20名)の楽天に入社、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」立ち上げ。2004年にヴィッセル神戸の経営に参画。2007年には楽天で唯一のフェロー風正社員となり、2008年には自らの会社である仲山考材を設立。2016~2017年にかけて横浜F・マリノスでプロ契約し、ジャイアントキリングファシリテーターとしてコーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。個人・組織・コミュニティ育成支援の専門家として活動している。著書『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』『組織にいながら、自由に働く。』『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』など。

(今井 慧 / Kei Imai)

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