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猛特訓は「ナンセンス」 育成のエキスパート、選手を納得させる“論理性”を追求

育成指導者の現状を憂う「若い、安い、イエスの三拍子が求められている」

 男子には「本当にたま~にキャラクターを変えて、素走りをさせた」という。

「昭和だって捨てたもんじゃない。それが効果的な時もある。でも女子には、すぐに反論されます。『サッカーボールを使ったフィジカルトレーニング』という書籍を出しているので、『あの緑の本、どうなってるんですか?』って」

 指導者として最も伸びたと実感しているのが、東京ヴェルディを出て名古屋グランパスに移籍した時だった。

「ヴェルディの選手たちは理屈抜きに上手かったし、後から思えばだいぶ説明を端折っても大丈夫だった。逆に当時の名古屋は、ヴェルディと比べれば最低でも2ランクくらいは落ちたので、噛み砕いて丁寧に説明しないと伝わらなかった。おかげでより合理的になったし、あまり意味が分かっていなかった引き出しというものがたくさん出てきたな、と思う。ゲーテも最高のものを見たほうがいい、と言っていますが、改めて先にヴェルディを見ておいて良かったと実感しています」

 名古屋でも移籍3年目には、日本クラブユース選手権(U-15)を制覇。さらに京都サンガF.C.に移っても、久保、駒井善成(北海道コンサドーレ札幌)、原川力(サガン鳥栖)などの成長を後押しした。

 だが自ら育成指導者のステータスを高めながら、現状を憂う。

「今、育成の指導者は、若い、安い、イエスの三拍子が求められている。もしくは現役上がりほやほや。職人さんらしい方々がほぼいなくて、彼らがJクラブのジャージを脱いだら、どの程度の指導者なのかな、と思うところがあります」

 海外へ出れば、育成には最も年期の入ったプロが携わる。彼我の違いを知るだけに、菅澤の忸怩たる思いが伝わってきた。

[プロフィール]
菅澤大我(すがさわ・たいが)

1974年6月30日生まれ。96年に自身が選手として所属した読売クラブ(現・東京V)ユースのコーチとなり、元日本代表FW森本貴幸、日本代表MF小林祐希ら多くの逸材を発掘し育てた。2005年限りで退団すると、その後は名古屋、京都、千葉、熊本とJクラブの下部組織コーチを歴任。18年になでしこリーグ2部のちふれASエルフェン埼玉の監督になると、昨季の皇后杯ではクラブ史上初のベスト4進出に導いた。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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