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「花園の汗を活写せよ。」 高校ラグビー日本一の裏にあった、高校生3人のもう一つの青春

今年1月、写真とSNSを使って10代の若者を応援する大塚製薬「ポカリスエット」のプロジェクト「ポカリ写真部」で、3人の“高校生部員”が高校日本一をかけた大舞台でシャッターを切った。ラグビー全国高校選手権の決勝を、300人以上の応募から選ばれた高校生カメラマンが撮影。写真は新聞社が発行する特別号外に掲載された。参加したのは、松村愛梨さん(愛媛・済美高3年)、平内陶子さん(大阪・府立工芸高3年)、島野泰輔君(京都・立命館宇治高2年)。コロナ禍で学校行事や部活が制限された高校生活を過ごした中、青春の一ページをファインダー越しの世界に捧げた3人に今回の企画に挑戦した想いを聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

高校生カメラマンが撮影したラグビー高校選手権決勝、試合後に抱き合う東福岡と報徳学園の選手たち【写真:松村愛梨】
高校生カメラマンが撮影したラグビー高校選手権決勝、試合後に抱き合う東福岡と報徳学園の選手たち【写真:松村愛梨】

「ポカリ写真部」企画で高校生カメラマンがラグビー高校選手権決勝を撮影

 今年1月、写真とSNSを使って10代の若者を応援する大塚製薬「ポカリスエット」のプロジェクト「ポカリ写真部」で、3人の“高校生部員”が高校日本一をかけた大舞台でシャッターを切った。ラグビー全国高校選手権の決勝を、300人以上の応募から選ばれた高校生カメラマンが撮影。写真は新聞社が発行する特別号外に掲載された。参加したのは、松村愛梨さん(愛媛・済美高3年)、平内陶子さん(大阪・府立工芸高3年)、島野泰輔君(京都・立命館宇治高2年)。コロナ禍で学校行事や部活が制限された高校生活を過ごした中、青春の一ページをファインダー越しの世界に捧げた3人に今回の企画に挑戦した想いを聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

 ◇ ◇ ◇

 楕円球を追う高校生を、高校生がカメラで追いかけた。

 1月に行われた高校日本一をかけた全国高等学校ラグビーフットボール大会。高校生カメラマンが撮影し、撮った写真が新聞社の特別号外に掲載された。高校生にとって、またとない企画を実施したのは「ポカリ写真部」という新たな“部活”だ。

 10代の子供たちが今しか撮れない、自分らしい写真をSNSで発信し、共有し合う活動を目的に2022年2月に発足。入部条件は、13歳以上の10代であることだけ。公式サイトから入部届を提出すれば、正式部員になれる。

「#青いボクら」「#ポカリ写真部」のハッシュタグを添え、ツイッターとインスタグラムに投稿。コンセプトの「青いボクら」を体現した写真は、プロジェクトの公式アカウントがシェアし、多くの人に届けられる。

 入部者を対象としたイベントもある。「花園の汗を活写せよ。」と銘打たれた今回の企画は、そのひとつ。大塚製薬の担当者は言う。

「ポカリスエットは『生命』に寄り添い、『前へ進もうとする人』を応援する唯一無二の飲料ブランドを目指しています。そして、生命力の象徴として若者をテーマとしたコミュニケーションをかねてより展開してきました。

 学校行事や部活動が制限されやすい中でも、自分らしい生き方で青春を謳歌する10代の皆さんにブランドの目指す姿を重ね、今の10代の生き方を社会に対して一緒に発信したいという思いから、ポカリ写真部を立ち上げました。

 SNS上での活動がほとんどですが、よりリアルで特別な体験をお届けしたいと考え、本企画に至りました」

 企画を実現させた裏には、高校生への想いがあった。

 特に、今の3年生は2020年4月、誰も経験のない感染症が広がる中で入学。全国一斉休校から始まり、なんでも「不要不急」を理由に日常が制限された。学校行事や部活もそう。「アフターコロナ」とか「ニューノーマル」とか言われても、先は見えない。せっかく撮った写真もマスクをしたものばかり。

「青春って密」――。大人が教えてくれる“密な青春”の本当の意味を知ることなく、卒業が迫る。そんな時、今回の企画はひとつの救いになった。

松村さん、平内さん、島野君が今回の企画に応募したそれぞれの理由

 300人超から選ばれた3人が応募した理由はそれぞれ。

 松村さんはチアリーディング部と写真部を掛け持ちしていた。

チアと写真部を掛け持ちした済美高3年・松村愛梨さん
チアと写真部を掛け持ちした済美高3年・松村愛梨さん

「高校生活で最後チャンスだったし、高2から野球を撮り続けていて、ラグビーに興味もあったんです。野球だったら撮れる。実力を試すじゃないけど、ラグビーは初めての挑戦だし、どこまで通用するのかなって、やってみたくて」

 高2の時に一眼レフを家族に買ってもらった。もともと写真好き。中学時代はデジカメでクラスのみんなを撮ってシェア。友達の自然な表情を引き出して「ありがとう、写真めっちゃええやん!」と褒められることが嬉しくて、のめり込んだ。

 チアリーディング部はコロナの影響で活動のひとつ、野球部の応援もできず。「1回も球場に行ったことがないのが心残り」と悔いがあった。

 小4から高3までバスケ部で励んできたのは平内さん。

バスケ部で励んできた府立工芸高3年・平内陶子さん
バスケ部で励んできた府立工芸高3年・平内陶子さん

「前に甲子園の(高校野球を撮影する別の「ポカリ写真部」企画)で選んでもらったけど、それがコロナの影響でできなくなっちゃって……高校生の間にもう一回、チャレンジしたいなって思って。ダメ元で応募しました」

 カメラ好きの父の影響もあり、興味を持ったファインダー越しの世界。「友達を撮った時、めっちゃ喜んでくれるのがなんか嬉しくて。ずっと撮ってます」。大切な人からもらう「ありがとう」は特別。「SONYのミラーレス」が相棒だ。

 バスケ部は先輩の代が大会の観戦を制限され、最後の試合すらインスタライブの配信を保護者が見守るしかなく複雑だった。

 唯一の2年生で男子、島野君は自分もラグビー部に所属している。

自身もラグビー部に所属する立命館宇治高2年・島野泰輔君
自身もラグビー部に所属する立命館宇治高2年・島野泰輔君

「ドイツに住んでいた中2から始めて、高校で日本のラグビーを知ったら、海外とは違うって驚いた。グラウンドを出る時に礼をする、観客に礼をする。日本人特有の(文化)を知ってはいたけど、そういう部分を撮ってみたいと思って」

 映像も好きで、学校のクラスの動画を作ったり、写真を撮ったり。「カメラというものが好き。普段はスマホで、たまに家族の一眼レフで撮ってます」。卒業後は大学で映像の勉強をしたい。“人に伝える”を体験できる絶好の機会でもあった。

 応募した理由は違っても、達成したいことは一つ。

 “できない理由”を探して諦めるのではなく、残された高校生活を少しでも輝かせること。

レクチャー会で教わったプロの技術に驚き 一度きりの本番で撮ったこだわりの1枚

「プロのカメラマンって、すごい」

 12月18日。初めて3人が顔を合わせ、行われた事前の撮影レクチャー会。松村さんは驚いた。

 新聞社のプロのカメラマンが機材の扱いから撮影技術、試合中の動きまで丁寧に指導。学びは「狙って撮る技術」と松村さん。「自分は技術もないから、量で勝負していた。プロのカメラマンさんは狙って撮ると聞いて、そこまで考えて写真に向き合っているんだって」。教わったことは日々思い返し、本番を迎えた。

レクチャー会でプロのカメラマンの指導を受けた高校生カメラマン3人
レクチャー会でプロのカメラマンの指導を受けた高校生カメラマン3人

 吐く息も白い1月7日。高校ラグビーの聖地、大阪・花園ラグビー場。全国高等学校ラグビーフットボール大会決勝、東福岡―報徳学園。

 いざ、本番。3人はプロのカメラマンと同様、ピッチサイドやスタンドに駆け出し、シャッターを切った。

 試合は東福岡が先制し、前半から優位に押す展開。島野君は流れていく時間の速さに焦った。

「(前後半で)60分間という時間のプレッシャーが凄くて。あっという間に30分経ってハーフタイム。『あれ、自分、良い写真を撮れてるかな?』って。その中でどれだけ写真が撮れるか。ラグビーをしているので、次にどういうプレーがあるかは分かっても上手さが違うし、全然違った」

 15人対15人で激しくぶつかり合い、観客も興奮する。平内さんはラグビーの迫力に心奪われた。

「お客さんがこっちを意識せず、自然な表情を撮るために周りに配慮するのは意識しました。ずっとバスケをやっていたので、ラグビーの知識もないし、生で見たこともないけど、観客席にいる人も含め、めっちゃ面白いスポーツ。違うスポーツの良さに気づけて、すごく面白かったです」

 無我夢中で駆け回った60分間。日本一になった東福岡が歓喜し、敗れた報徳学園が涙した。こだわりの1枚が撮れた。

松村さんが撮影した、試合に敗れて涙をこらえる報徳学園の選手たち
松村さんが撮影した、試合に敗れて涙をこらえる報徳学園の選手たち

「負けたチームの選手が泣いている表情や姿。みんな勝ったチームの方を見る。自分も夏に『写真甲子園』の大会に出た時、みんな優勝した方を見ていた。自分も出場した身として、頑張って努力を重ねてきたことが分かるから。勝った方じゃなく、負けた方も見てほしいと思って撮った写真です」(松村さん)

島野君が撮影した、鋭いタックルで東福岡の選手を止める報徳学園の選手
島野君が撮影した、鋭いタックルで東福岡の選手を止める報徳学園の選手

「タックルのシーンです。ラグビーといったらタックル。東福岡を止めている報徳学園の低いタックルを撮れたのが良かった」(島野君)

平内さんが撮影した、客席で盛り上がる東福岡の応援団
平内さんが撮影した、客席で盛り上がる東福岡の応援団

「人を撮るのが好きで、応援に来た子たちにカメラを向けたら『うぇーい』って感じの笑顔が、めっちゃ自然に撮れた。あと、東福岡の最前列にいた男の子が怪我をしていて松葉杖。優勝した時にめっちゃ泣いてて、本当はスタメンに選ばれてたのかなって気になって、撮影した写真が結構好きです」(平内さん)

 3人が想いを込め、出来上がったのが特別号外。努力が形になる喜びは格別だった。

実際に完成した紙面に感動「一生忘れられない経験になりました」

特別号外にも掲載された島野君が撮影した写真
特別号外にも掲載された島野君が撮影した写真

「花園躍動 輝き捉えた」

 こんな見出しとともに、紙面1枚を使って高校生カメラマン3人が撮った写真、計6枚が掲載された。松村さんが撮影した抱き合う選手たち、平内さんが撮影した盛り上がる応援席、そして「突進する東福岡の選手=高校生カメラマン・島野泰輔さん撮影」と写真一枚一枚に名前も表記されている。

 新聞社のカメラマンからは「プロには撮れない、高校生ならではの視点で撮られた写真」と褒められた。

 紙面を見た平内さんは「めっちゃうれしかったし、おばあちゃんとおじいちゃんが家に貼ってるって聞いて、頑張って良かったです。紙面を作るところも見させてもらって、新聞を作る人たちって『すごい』じゃなく『すごい以上』な感じ。プロの人たちのお仕事をしてる姿も知れて、すごく良い経験だった」と振り返った。

特別号外にも掲載された平内さんが撮影した写真
特別号外にも掲載された平内さんが撮影した写真

 前述の大塚製薬の担当者は語る。

「この経験を通して、将来プロの写真家を目指して欲しいわけではありません。今回300通を超える応募の中から選ばれて花園ラグビー場に行った自信。自分の撮影したものが新聞号外に掲載される特別な体験。

 応募して選ばれなければ、出会えなかった仲間たち。高校生カメラマンとして、見て感じたものの何か一つでも心の片隅に残り、高校生を支えていく小さな記憶のエンジンになっていけばいいなと思います」

 松村さんは新聞社のカメラマン、平内さんは広告業界の仕事、島野君は海外で映画プロデューサーと、それぞれの夢を持つ。

 大切なことは一歩踏み出せば成長できるということ。そして、一緒に夢を追う仲間との繋がりを持てるということ。この企画がそれを後押しした。愛媛出身の松村さんが大阪名物「551の肉まん」を食べたことがないといい、関西出身の平内さんと島野君が案内。3人で一緒に食べた。

「すごく仲良くなれました。優しい先輩たちです」と島野君は笑った。

 今回、高校生活に大切な思い出を作ってくれたきっかけは「写真」。松村さんは「写真を見たら、その時のことを思い出せる。映像より形に残って、共有しやすいから」と言い、平内さんも「撮った写真で誰かが喜んでくれる。『めっちゃ可愛く撮れてるわー』みたいな言葉を聞いたらうれしいし」と写真の魅力を語る。

 過ぎる時間は一瞬、撮った写真は一生。

「アフターコロナ」の「ニューノーマル」が訪れても消えないものができた。

 3人は口を揃える。

「一生忘れられない経験になりました」

高校生カメラマンとして参加した(左から)島野君、平内さん、松村さん
高校生カメラマンとして参加した(左から)島野君、平内さん、松村さん

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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