2017年から参加する「東北『夢』応援プログラム」で気仙沼の小学生30人を指導
この日は来年3月まで半年間続くプログラムのスタートにあたる「夢宣言イベント」を開催。「東北『夢』応援プログラム」には今回、5・6年生の男女15人が参加する。夢応援マイスターの渡邉氏は、子どもたちがそれぞれ掲げる半年後の約束を達成できるように、遠隔指導ツールで成長をサポート。1日限りのイベントで子どもたちとの交流を終えるのではなく、離れた場所にいながらも継続して動画やSNSを通じたプライベートレッスンを受けられるという画期的な試みだ。
いつもと同じ練習でも景色を変える方法 バスケ渡邉拓馬が伝えたい「考える大切さ」
台風一過の秋晴れが広がった三陸の街に、子どもたちの元気な声がこだました。宮城県気仙沼市の唐桑地区にある小原木公民館に集まったのは、気仙沼ミニバスケットボール少年団に所属する小学生の男女30人。今や遅しと登場を待ちわびる子どもたちの前に、颯爽と姿を現した人こそ、バスケットボール元日本代表で現在はBリーグ・京都ハンナリーズでゼネラルマネージャーを務める渡邉拓馬氏だ。
公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた、年間を通して子どもたちの夢や目標を応援する「東北『夢』応援プログラム」。このプログラムに2017年から「夢応援マイスター」として参加する渡邉氏は、これまで故郷・福島をはじめ、各地で子どもたちと触れあい、バスケットボール上達のため、そして人として成長するためのヒントを伝えてきた。
この日は来年3月まで半年間続くプログラムのスタートにあたる「夢宣言イベント」を開催。「東北『夢』応援プログラム」には今回、5・6年生の男女15人が参加する。夢応援マイスターの渡邉氏は、子どもたちがそれぞれ掲げる半年後の約束を達成できるように、遠隔指導ツールで成長をサポート。1日限りのイベントで子どもたちとの交流を終えるのではなく、離れた場所にいながらも継続して動画やSNSを通じたプライベートレッスンを受けられるという画期的な試みだ。
2021年から始まった気仙沼への訪問は、これが3度目となる。前年のプログラムやクリニックに参加した子どもたちも多く、「今回初めて参加する人?」と渡邉氏が質問すると手を挙げたのは4人だけ。始めは少しよそいきの雰囲気も漂ったが、弾けるような笑顔とハツラツとした声があっという間に広がった。
渡邉氏との交流が子どもたちに与えた変化とは
まずはクリニックからスタート。「いつもと同じ練習メニューでも、自分の考え方一つでまったく違うものとなります。ただドリブルをする、ただシュートをするだけではなく、何のためにする練習かを考えてみましょう。考える時間を持つと、いつもの練習が違って見えると思います」という渡邉氏のアドバイスに続き、ウォームアップを兼ねた5分間の鬼ごっこを行った。移動していいのは、体育館の床に描かれている様々な線の上だけ。鬼役につかまらないよう、ボールをドリブルしながら逃げ回るというゲームだ。
続いては、基本スキルをアップさせるためのドリルに挑戦。2人一組で1.5メートルほどの間隔を開けて向かい合い、まずは両手の指先を使ってワンバウンドパス。軽く膝を曲げて背筋を伸ばす基本姿勢をチェックした。さらに、片足立ちでのパス、片手キャッチからそのままボールを1回突いてパスなど、徐々にレベルが上がっていくと、子どもたちはなかなかうまくいかず、てんやわんや。それでも、渡邉氏のアドバイスを参考に自分で考え、工夫しながら、笑顔で挑戦し続けた。
嬉しそうにこの様子を見守るのが、気仙沼ミニバスケットボール少年団の代表・袖野洸良さんだ。自身も大学までバスケットボールをプレーしたという袖野さんは、前回の「東北『夢』応援プログラム」を通じた渡邉氏との交流が、子どもたちにポジティブな影響を与えていることを実感しているという。
「一人一人が具体的な目標を立ててノートに書き込み、どうしたら達成できるかを考える、いい機会をいただきました。渡邉さんとの交流から、ただ練習をするだけではなく、振り返ったり考えたりすることが大切だと学んだようで、今ではそれぞれが自分で練習ノートをつけています。実際にプレーのレベルも上がってきましたし、成長を感じる場面も多々あります。今回も渡邉さんとお会いできることを何日も前から楽しみにしていたようで、子どもたちのワクワク感が伝わってきました」
クリニックの最後は、4人対4人による試合形式のゲームを実施。通常のルールとほぼ同じだが、大きな違いはどちらのゴールにシュートしてもいいという点だ。どちらのゴールを目指した方がシュートの決まる確率が高いか、状況を見ながら瞬時の判断が求められる。一方のゴールを目指す途中で急な方向転換をしてディフェンスを外したり、相手がシュートを決めた直後には反対のゴール下に陣取ってロングパスからシュートを決めたり。機転を利かせながらシュートを打つ子どもたちの姿を、渡邉氏は嬉しそうに見守った。
来年3月まで半年間のプログラム「一緒に頑張りましょう」
1時間半にわたるクリニックの時間は、あっという間に終了。遠隔指導に参加する15人の子どもたちは夢達成ノートに「わたしの将来の夢」「未来のわたしの町をどうしたい?」「半年後の約束」などを書き込み、渡邉氏の前で発表した。将来の夢では男子5人が「NBA選手」「プロ選手」と答え、女子は「パティシエ」が人気。また、気仙沼の特産品にちなみ「ふかひれ会社の社長」というものまで、幅広い夢が語られた。
「半年後の約束」としては「県大会で上位に入る」「ディフェンスを強くしたい」「大会で5回以上シュートを決める」「ドライブのスピードを速くしたい」など、それぞれが具体的な目標を発表。これから始まる渡邉氏との遠隔指導に胸を弾ませた。
渡邉氏は子どもたちの発表にしっかりと耳を傾けると、こう呼びかけた。
「今日はとても楽しかったです。前回(4月)に比べると、みんな上手になった印象があります。クリニックの前に考えることが大事と伝えましたが、バスケに限らず何事も自分で考えることは大切です。今日のクリニックを終えて、自分で考えたことや感じたことは次に生かしてみましょう。色々なことを感じるアンテナを張り巡らせておくことが大事です。これから3月までの半年間、一緒に頑張りましょう!」
これから半年間にわたり、渡邉氏と子どもたちが一緒に歩む成長の道のり。来年の3月、15人の子どもたちがどのような姿を見せてくれるのか楽しみだ。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)