「上っていくばかりじゃ面白くないでしょ、人生」 W杯落選、島暮らしで孤立も味わった久保竜彦の生き様
ドラゴンは今も変わらずドラゴンだった。サッカー元日本代表FW、久保竜彦。日本人離れした身体能力と強烈な左足を武器に得点を量産し、2006年ワールドカップ(W杯)ドイツ大会を目指したジーコジャパンで日本サッカー界待望のストライカーとして嘱望されながら、度重なる怪我でコンディションが上がらず落選。39歳だった2015年限りで引退後は2018年から縁あって山口・光市の港町に移り住み、塩作りやコーヒー焙煎など自然と共生した地方暮らしをしている。「BEYOND(~を超えて)」をテーマに展開する「THE ANSWER」のインタビュー。後編は、令和の今に響く独自の人生観に迫った。自分と他人を比べても「それはええじゃろ」と語る言葉の裏にある信念、気持ち良い場所と人を求めて生きる理由とは――。(敬称略、取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
「BEYOND」インタビュー後編 令和の今だから響くドラゴンの生き様
ドラゴンは今も変わらずドラゴンだった。サッカー元日本代表FW、久保竜彦。日本人離れした身体能力と強烈な左足を武器に得点を量産し、2006年ワールドカップ(W杯)ドイツ大会を目指したジーコジャパンで日本サッカー界待望のストライカーとして嘱望されながら、度重なる怪我でコンディションが上がらず落選。39歳だった2015年限りで引退後は2018年から縁あって山口・光市の港町に移り住み、塩作りやコーヒー焙煎など自然と共生した地方暮らしをしている。「BEYOND(~を超えて)」をテーマに展開する「THE ANSWER」のインタビュー。後編は、令和の今に響く独自の人生観に迫った。自分と他人を比べても「それはええじゃろ」と語る言葉の裏にある信念、気持ち良い場所と人を求めて生きる理由とは――。(敬称略、取材・文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
◇ ◇ ◇
【PR】「おーん。やっぱ、DAZNがええんか」 今もガラケー派を貫く昭和世代・久保竜彦にDAZNを見せてみた
横浜で実施した取材には、電車で来た。
「めんどい」という極めて明快な理由で、久保竜彦はスマホを持たない。ガラケー一筋。「みんな、(スマホで)何を見とんかなって思うけどね。なんかチカチカしとるのをやっとるね。ゲームがしたいんやろね」
では、自身は電車内でどうしているのか。「外、見とる。今日はオモロイことはなかったけど。鳥見たり、建物見たり。そんな感じよ」
常識の枠にハマらない。ドラゴンとは、こういう男である。
引退後の42歳から山口・光市にある室積で暮らしている。山と海に囲まれた漁師町で、連絡船で20分の距離にある小さな離島・牛島を行き来しながら、畑仕事や塩作り、コーヒー焙煎に精を出し、酒を好む。家にテレビはない。「サッカー観るより、釣りしとる方が楽しいけえ」
スーパーに行くことはほぼなく、食料は自分で作った野菜や釣った魚、そして、近所からのおすそ分け。
「自分でイカやタコも釣るし。山もあるし、しいたけとか山菜採りに行ったり、イノシシおるけえ、それを捌くこともあるよ。漁師の人が『エビ獲れたけど、いる?』って持ってきてくれたり。エビは足がはやい(傷みやすい)けんね。食い物も『これ食べんさい、あんた死にそうじゃないんか』って。全然、死にそうじゃないけど」
時代は令和。「リモートワーク」や「ワーケーション」という言葉が当たり前に。久保は図らずも地方暮らしを先行してきた。「(リモートワークは)うちで娘もやっとるわ」と言うが、ここから先がドラゴン流。
「家にはおるなと言うけどね、娘には。どっか出歩いて、そこら辺の公園でも、何か変えた方がいいよね。見る物、聞く音、匂いとかは絶対変えた方がいい。じゃないと、頭が動かんくなるけんね。(スマホを)チカチカ、ずーっとやっててね、こうなる(画面に集中する)けえ、この辺(周辺の視野)がなくなるんよ」
お金は「別に金があって(それだけで)オモロイことはないやろ」とミニマムな生活を好む。
多様性の時代。「自分らしさ」を尊重し、認め合う。その半面、他人と自分を比べ、幸せがぶれる人がいるのもまた事実。都会の競争社会で、タワーマンションの住人から嫉妬渦巻く中流層の悲哀を描いた「タワマン文学」も流行る。富や名声、給料や肩書き。そんな価値観とは対極にいるドラゴンの目には“今”がどう映るのか。
久保は「それはええじゃろ。何かを目指して、やりゃあね」と言った。