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人と殴り合うスポーツが人を育てること 痛みを知り「脳汁ドバドバ」の世界で悟った己のスケール――ボクシング・入江聖奈

「痛みを直に感じられるのがボクシングがいいところ」と語る【写真:松橋晶子】
「痛みを直に感じられるのがボクシングがいいところ」と語る【写真:松橋晶子】

ボクシングが人を育てること、入江が悟らせてくれた「自分のスケール」

 痛いけど、苦しいけど、とにかく楽しかった。

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 脳汁がドバドバ出る瞬間が、とにかくたまらなかった。

 ボクシングは人をどう育てるか――。

 その問いに対しても、真摯に取り組んできた入江のアンサーは実に明快だった。

「ボクシングで大事なのは、殴られる痛みがわかることだと感じています。もちろん自分も殴ってしまうんですけど競技の特性上、殴られないってことはない。痛みというものを直に感じられるのがボクシングのいいところなんじゃないかなと思います。

 もっと言うなら、ボクシングは誰にでも可能性があるんです。足が速くなくても、運動が苦手でも、背が高くなくても、戦い方次第では勝つことができる。それこそがボクシングの素敵なところじゃないですかね」

 入江は頷くようにして言った。

 競技生活から離れて東京農工大学大学院でカエルの研究に明け暮れる今、彼女にとってボクシングはどんな存在だったかを最後に尋ねた。

「自分のスケールを悟らせてくれた存在かなっていうのは凄く感じています。センスもない、不器用でパンチ力もないって劣等感に苛まれてきたなかで、できることとできないこと、やりたくてもやれないこと、そういったものを理解しながら自分のスケールに照らし合わせながらやっていきました。その過程において国際大会でメダルを獲ったり、それこそ東京オリンピックで金メダルを獲ったり、嬉しい結果を残すことができたのは自分にとって大きなものになったのかなって感じます」
 
 スケールの大小の問題ではなく、客観的に己を見つめていくことで、自分の“規模”を理解できたということ。自分が見えているから今、何ができるか、勝つために何ができるかを判断できる。
 
 運があっても、つかめなかったら意味がない。
 
 ボクシングに対する真摯な姿勢が、勝負の神様を振り向かせたことは言うまでもない。

(二宮 寿朗 / Toshio Ninomiya)


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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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