「なぜできない!」と絶対言わない 名将ベンゲルの元腹心、部活指導でも貫いた信念
2023シーズンからJ1リーグに復帰する横浜FCに、日本との関わりも深い1人の外国人指導者が加わった。セットプレーコーチ兼アナリストに就任したのは、元アイルランド代表GKのジェリー・ペイトン氏。イングランドの名門アーセナルを率いた名将アーセン・ベンゲル氏の下で、03年から15年間にわたってGKコーチを務めたほか、3つのJクラブでの指導を経験し、21年からは兵庫県の相生学院高校サッカー部で監督として日本のユース年代の選手を教えてきた。
「元アーセナルGKコーチの選手育成論」第4回
2023シーズンからJ1リーグに復帰する横浜FCに、日本との関わりも深い1人の外国人指導者が加わった。セットプレーコーチ兼アナリストに就任したのは、元アイルランド代表GKのジェリー・ペイトン氏。イングランドの名門アーセナルを率いた名将アーセン・ベンゲル氏の下で、03年から15年間にわたってGKコーチを務めたほか、3つのJクラブでの指導を経験し、21年からは兵庫県の相生学院高校サッカー部で監督として日本のユース年代の選手を教えてきた。
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そんな世界トップレベルと日本のサッカー事情を知るペイトン氏の「選手育成論」に迫る短期連載。今回は相生学院を率いていた際の選手に対する指導について、総監督として間近で見続けた上船利徳氏の証言をもとに振り返る。(取材・文=加部 究)
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ジェリー・ペイトンは、現役時代にアイルランド代表としてワールドカップ(W杯)、EUROに出場し、指導者としてはアーセナルで15年間にわたり黄金時代を支えた。世界のトップ・オブ・トップの現場を知り尽くすペイトンが、1年半も兵庫県相生学院高校サッカー部の指導に携わったのは奇跡的な出来事だったが、この間ともにピッチに立ちディスカッションを重ね、今年から新監督となる上船利徳には、膨大な見識という財産が残された。相生学院を去る前にペイトンは語った。
「グラスルーツという底辺のレベルを引き上げれば、やがては日本サッカーの発展に繋がる。そういうことに貢献できた時間は幸せだった。それにトシ(上船)は、私の哲学や知識のすべてを共有し、すでにJ1でも指導できるレベルにある。だから私は相生学院の今後になんの憂いもなく、新しい仕事に取り組める」
ペイトンの指導は、上船にとって新鮮な驚きの連続だった。
「まず日本のGKコーチは、GKの指導に専念しているケースが多いと思いますが、ジェリー(ペイトン)はGKに話す場合は、DFも集めます。GKへの指導内容をDFにも理解させる。これでGKとDFは互いに理解し合い、連係してプレーできます。
ジェリーは、状況ごとに非常に細かくGKのポジショニングやプレーを指示しています。ディフェンスラインの背後に蹴られたら、どこまで出るのか。ボールがバウンドしている場合のポジショニング。サイドからクロスが上がる場合のアングルごとの調整……。DFがそれを理解していれば、相手のミドルシュートやクロスに対しても『ここは飛び込む必要がない』『そこは上げさせても良い』という判断ができるので、焦って無理にボールに飛び込むようなことがなくなります。逆に『ここを消せば守れる』と整理されるので、3対3のカウンターのシーンなどでも怖くなくなるんです」
カタールW杯を振り返っても、ペイトンの指導の有効性は多くのシーンで検証された。まず日本に限らず、多くのGKはセーブする直前にプレジャンプ(準備するためにジャンプをする)を入れている。例えば権田修一がコスタリカに決勝点を奪われたシーンも、プレジャンプを入れたためにタイミングが外れたし、スペイン戦で堂安律が同点弾を決めた時にも、GKウナイ・シモンはプレジャンプを入れ、対応が遅れて勢いに押された。
「ジェリーは、プレジャンプは入れずに、必ずステップを踏みながら相手のシュートに備えるように指導していました。プレジャンプを入れてシュートを打たれると、ダイブしかできなくなる。ステップを踏めばキャッチができるようなボールでも、タイミングが外れて決まってしまうリスクが伴います」