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「赤鬼」と呼ばれたトルシエの素顔 通訳が語る緻密さ、訳しながら“鳥肌が立った”瞬間

緻密なミーティングの台本、毎回「リハーサルをしていた」

 トルシエが激情家の指揮官だったことは間違いないが、それは情熱があればこその行動であり、一方でチームをコントロールするリーダーとして“緻密さ”も持ち合わせていた。それが垣間見えたのが、試合当日に行われるミーティングだったという。

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「監督にとっては日々の練習メニューを組み、試合前に選手へ向けてスピーチをするのが、チーム作りの集大成と言える場。指揮官としての醍醐味だから、やっぱり通訳としてその場にいても楽しいし、15分間の戦略ミーティングで自然と感情も溢れ出てきます。

 フィリップは本当に上手でした。その後のヨーロッパの監督で言うと、(ジョゼ・)モウリーニョのようなタイプ。スピーチのリズムだったり、話の持っていき方など本当に選手たちのハートを掴むのが上手かった。彼には、そういう演出の才能があったんです。映画や舞台で言えばフィリップが監督であり脚本家だから、僕はただ彼が考えたシーンを役者として演じるだけでした」

 緻密に練り上げられたミーティングの“台本”。それを基に、2人は毎回「リハーサルをしていた」という。

「毎回、徹底的にやっていましたね。スピーチの内容、キーワードも決まっていて、話の持っていき方なども確認していました。即興はゼロでしたね。

 ただ、フィリップが上手いなと思うのは、スターティングイレブンはリハーサルの時には言わないんです。それはコーチも同じで、事前に意見は聞くけど、その場では言わない。僕もコーチも、あの試合当日のミーティングで初めて知る。だから日韓ワールドカップのトルコ戦でも、フィリップがホワイトボードにアレックス(三都主アレサンドロ)、西澤(明訓)と名前を書いた時に内心“おーっ”となって、訳しながら鳥肌が立ちました(笑)」

 本番に向けてチームを戦闘モードにするためのミーティングで、自らシナリオを書き、スタッフにも緊張感を漂わせるために気を配る。「赤鬼」と呼ばれたトルシエ監督は、選手やスタッフの心理をコントロールする緻密な演出家でもあった。

(第3回へ続く)

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■フローラン・ダバディ / Florent Dabadie

 1974年11月1日生まれ、フランス・パリ出身。パリのINALCO(国立東洋言語文化学院)日本語学科で学び、卒業後の98年に来日し映画雑誌『プレミア』の編集部で働く。99年から日本代表のフィリップ・トルシエ監督の通訳を務め、2002年日韓W杯をスタッフの1人として戦った。フランス語、日本語など5か国語を操り、02年W杯後はスポーツ番組のキャスターや、フランス大使館のスポーツ・文化イベントの制作に関わるなど、多方面で活躍している。

(THE ANSWER編集部・谷沢 直也 / Naoya Tanizawa)

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