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有償でスポーツ指導をすることは世界の常識か 日本が目指す仕組み、欧米それぞれの実情

昨年6月に、経済産業省の地域×スポーツクラブ産業研究会から、議論の内容をまとめた第一次提言が発表された。

有償のスポーツ指導、米国での常識とは
有償のスポーツ指導、米国での常識とは

連載「Sports From USA」―今回は「有償のスポーツ指導の常識」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「有償のスポーツ指導の常識」について。

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 昨年6月に、経済産業省の地域×スポーツクラブ産業研究会から、議論の内容をまとめた第一次提言が発表された。

 この提言では、サービス業としての地域スポーツクラブを作り、大人には生涯スポーツ、健康、社交の場、ジュニア世代向けには学校部活動に代わる活動の場を提供することを掲げている。続けて、この新しいシステムに必要な5つのポイントが挙げられており、3番目に【「スポーツ指導を学んだ有資格者が有償で指導する」という常識の確立】がある。

 この提言を読むと、「スポーツ指導を学んだ有資格者が有償で指導する仕組みを確立」することが新しい地域スポーツクラブを作っていくうえで重要なポイントであることがよくわかる。能力や労力を無償で提供するように強要されたり、搾取されたりすることはあってはならないことだと筆者も思う。しかしながら、「スポーツ指導を学んだ有資格者が有償で指導するという常識」は、誰にとっての当たり前なのかは、今ひとつ理解できなかった。たとえば、スポーツ指導を学んだ有資格者が有償で指導をすることが国際的な常識かといえば、そうとは言い切れないだろう。

 筆者は米国に住んでおり、スポーツをしてきた子どもが2人いて、小学校から中学校まで学校外の競技チームに所属していた。彼らのチームのコーチは、コーチ講習を受けている有資格者だったが無償のボランティアあり、報酬を得ていなかった。しかし、子どもたちが所属チームの練習以外で、夏休み等にグループレッスンやプライベートレッスンを受けるときには、これらの指導に対してお金を支払っていた。無償のボランティアコーチと、有償の個別指導やグループ指導とが、なんとなく共存しているといえる。

 米国のスポーツの場で、どのくらいのボランティアコーチがいるのかを把握するのは難しいことだが、アスペン研究所がワシントン州キング郡を対象に調査したところ、6歳から10歳の子どもをコーチする人は、70%が無償ボランティア、30%報酬を得ているコーチ、11歳から14歳までは37%が無償ボランティア、63%が報酬を得ているコーチ、15歳から18歳までは17%が無償ボランティア、83%が報酬を得ているコーチであった。

 この連載では、米国の学校運動部を指導する教員と外部からの指導者には報酬が支払われていることをお伝えしてきた。この報酬額は、教員の団体組合と学区教育委員会の交渉で決定していることが多い。教員と学区の労使交渉で決まった金額を外部からの指導者にも適用している。こういった背景から、スポーツ指導の専門家に指導料を支払うという性質とはやや異なるといえる。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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