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「踊れる男子を育てたい」 高橋大輔の恩師、フィギュア指導者を志した人生の転機

隆盛を極める近年の日本フィギュアスケート界には次々と新たな才能が頭角を現し、2月に開催される北京五輪でもメダル獲得への期待が高まっている。その土台を作った1人に挙げられるのが、数々のスケーターを育ててきた長光歌子コーチだ。高橋大輔を中学時代から長年指導し、2010年バンクーバー五輪での日本男子初の銅メダル獲得に導いた。そんな歴史を築いた名伯楽が語る「フィギュアスケート論」。今回は大学時代に、選手から指導者を志すきっかけとなった転機について振り返る。(取材・文=小宮 良之)

2010年バンクーバー五輪での高橋大輔(左)と長光歌子コーチ【写真:Getty Images】
2010年バンクーバー五輪での高橋大輔(左)と長光歌子コーチ【写真:Getty Images】

連載「名伯楽のフィギュアスケート論」第3回、札幌五輪を現地観戦して受けた衝撃

 隆盛を極める近年の日本フィギュアスケート界には次々と新たな才能が頭角を現し、2月に開催される北京五輪でもメダル獲得への期待が高まっている。その土台を作った1人に挙げられるのが、数々のスケーターを育ててきた長光歌子コーチだ。高橋大輔を中学時代から長年指導し、2010年バンクーバー五輪での日本男子初の銅メダル獲得に導いた。そんな歴史を築いた名伯楽が語る「フィギュアスケート論」。今回は大学時代に、選手から指導者を志すきっかけとなった転機について振り返る。(取材・文=小宮 良之)

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「とにかく海外への憧れがありました」

 フィギュアスケート界で愛される指導者、長光歌子コーチは明かす。

 1972年、長光コーチは大学3年で一念発起し、選手から指導者へ転身している。男子フィギュア界初の五輪メダルをもたらし、今の人気の先駆けになった高橋大輔を育てた。他にも田中刑事、三宅星南、浅沼まり、今川知子、澤田亜紀など男女問わず、五輪出場や全日本選手権で上位に入るトップスケーターを数多く輩出してきた。

 その指導者人生の原点は、「一途な憧れ」だった――。

――お母さん方の親戚は全員学校の先生で、ご自身も国語の先生になると思っていたとか。幼い頃は“スケートをやらされている”と思ったのが、指導者になる転機はどこにあったのでしょう?

「転機は、(1972年の)札幌オリンピックでした。現地に行って練習を見て、男子が本当に素敵で! 踊って滑れて、ジャンプが跳べて、女子にないものを感じて。自由に動く振り付けを見て、“男の人が踊ってジャンプするっていいものができる! そういう選手を育てたい!”って思ったんです。それが始まりですね。当時、日本でも樋口豊先生たちがカナダへ行って、“踊るプログラム”を持って帰っていらっしゃいましたけど、日本全体ではまだ男子が踊るプログラムは浸透していなかったんです。手のひらを真下に伸ばして滑るだけっていうのが普通で。世界でも(1976年インスブルック五輪金メダリストの)ジョン・カリーでさえ、昔はそうしろと指導されていた時代ですから」

――着物を買ってもらう代わりに、札幌に行きたいとお願いしたそうですね。

「祖母が成人式の振袖を買ってくれると言ったんですけどね。昔って海外の試合を見ることがなくて、全日本で5番、6番に入っても、海外遠征は世界選手権とオリンピックしかなくて、そこには選ばれなかった。海外は遠いもので、試合を自分の目で見られなかったんです。平松(純子)さん(1950年代、60年代を代表する日本女子フィギュアスケーターで2度のオリンピック出場)の試合を8ミリフィルムで見せてもらい、海外の試合の素晴らしさ、街の素敵さを感じ、その映像にすごく憧れて。それを札幌で見られるなら、“絶対に行きたい!”って。海外に行くことが当時は夢でしたから」

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長光歌子

関大アイススケート部コーチ 
1951年生まれ、兵庫県出身。66年の全日本ジュニア選手権で優勝するなど選手として実績を残すと、引退後は指導者として多くのスケーターを育てる。高橋大輔を中学時代から指導し、2010年バンクーバー五輪で銅メダル、同年の世界選手権で優勝に導いた。フィギュアスケートをこよなく愛し、現在は関大アイススケート部コーチを務める。

小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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