ESPNで全米放映された高校野球「日本のフィールド・オブ・ドリームズ」は何を伝えたか
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回のテーマは「日本の高校野球ドキュメントをESPNが取り上げた日」。
連載「Sports From USA」―NHKエンタープライズなどが制作した密着番組をESPNが放映
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回のテーマは「日本の高校野球ドキュメントをESPNが取り上げた日」。
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米スポーツ専門局ESPNが、高校球児を描いたドキュメントフィルムを放送した。
6月30日の放送開始前、日本の高校野球を米国人がどう捉えるのかとちょっと気にはなったが、もしも、負の部分が描かれていたとしても「炎上」しないだろうと考えていた。
それは私が2012年にリリースされたドミニカ共和国の球児たちを追いかけた、ドキュメント映画「ballplayer」を見た時の経験からだ。
このフィルムの予告編で、選手の寝食の面倒を見ながら野球を教えるコーチがこんなことを言う。「種をまき、水をやり、全てのことをやる。育ったら、売るのだ」。
選手が育ったら売る――。多くの国の少年野球の場で、コーチがこのような表現をすることは許されないだろう。
発言をしたコーチはアカデミーの経営者で、貧しい家庭で育つ球児に寝泊まりするところや食事を無償で提供しながら野球を教えている。慈善事業ではない。指導をした球児たちが16歳になり、メジャーリーグ球団と契約できたならば、その契約金の一定の割合をもらうということになっている。日本や米国とは、育成システムが違う。
16歳になった直後が契約に有利なため、選手の年齢詐称疑惑が持ち上がり、規則違反を犯してでも何とかして獲得しようというスカウトによる選手争奪戦などがテーマ。ドミニカ共和国の野球とメジャーリーグの暗部も描いている。しかし、投稿された感想欄には、これらの善悪や是非を問うのではなく、文化や状況が分かったという高評価が多かった。(ちなみにballplayerの主人公は、今ではツインズの中軸を打つ16歳当時のミゲル・サノーである)
日本の高校野球を追いかけたドキュメントは「KOSHIEN:Japan’s Field of Dreams」というタイトルだ。プロダクション会社はNHKエンタープライズとシネリック・クリエイティブ。昨年11月に米ニューヨークのドキュメント・フェスティバルで上映されており、米ESPN局が制作したものではない。