「整いすぎた環境」はマイナスに働く ドイツ人指導者が説く、子供の成長を促す“向き合い方”とは
ドイツも昔に比べて「ハングリーな選手は少なくなっている」
しかし、だからといって、そうした環境の良さに子供たちが甘んじるようになったら、それも違う。コンフォートゾーン(快適な空間)にいるままだったら、自分の資質をさらに成長させることはできない。野心、ハングリー、向上心、学習意欲が欠かせない。
ジーベルトは続ける。
「ドイツ選手にもっと抵抗力が必要なのは確かだと思う。ドイツにも十分すぎるくらい優れたタレントがいる。ただ昔と比べてハングリーな選手は少なくなってきているかもしれない。あまりに早い段階から、過不足のない施しを受けているのは一つの要因だ。
例えば、自分で何もしなくても片付けてもらえたり、洗濯してもらったり、食事を準備してもらったり。でも育成の段階でそんな丁重なサービスを受けていたら、そこで満足してしまわないか? 『プロになりたい!』という向上心、野心、意欲を高めていくためには、そんなふうに環境が整えられすぎていたらマイナスに働いてしまうんだ」
では、どうすればいいのだろうか。指導者には、どんなアプローチが求められているのか。ジーベルトは言葉を強める。
「例えば、プロクラブの育成アカデミーに入ってくる才能ある若い選手たちが、そこからさらに成長し、プロ選手となり、さらに長くプロの世界でも活躍できるような基盤を作るためには、自分で自分の限界に向かって挑戦していく意欲がなければならないんだ。そして私たち育成アカデミーの指導者にとって大事なのは、どこが今の君の最大値で、そこに近づき、さらに超えるにはどうすべきかというのをただ示すだけではなく、そのための確かな助けとなることだ」
気をつけなければならないのは、ハングリー精神が必要だからと言って、「プロになれなかったら、その先の人生はない」というほどのギリギリの社会的状況とか、不必要に理不尽な取り組みを課すのが得策だとは思えない。そうした事情を抱えた国や地域はある。でも、日本であれ、ドイツであれ、社会として求められる根本的な基盤があるわけだし、それを損なうのもまた違う。やりすぎはどちらの方向にもマイナスになる。人はやればやるほど成長したりするわけではない。成長にはメカニズムがある。