勝利至上主義の野球に危機感 元巨人・佐藤洋監督、東北高で目指す“教えすぎない”指導
元甲子園球児、元プロ野球選手で、昨年8月に母校・東北高の監督に就任した佐藤洋氏(60歳)。高校野球の監督になる前は約20年間、埼玉県内の野球スクールで指導に携わっていた。現役引退後から現在に至るまでの、指導者としての歩みを追った。(取材・文=川浪 康太郎)
東北高校野球部・佐藤洋監督インタビュー第3回
元甲子園球児、元プロ野球選手で、昨年8月に母校・東北高の監督に就任した佐藤洋氏(60歳)。高校野球の監督になる前は約20年間、埼玉県内の野球スクールで指導に携わっていた。現役引退後から現在に至るまでの、指導者としての歩みを追った。(取材・文=川浪 康太郎)
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佐藤は32歳で現役を引退した後、社会人野球でコーチを務めた。その後、埼玉県のスポーツメーカーに就職。トレーニング用品などの営業、販売に従事する一方、元プロ野球選手という経歴を生かし、会社の事業の一環で小中学生を対象とした野球スクールを設立することになった。
スクールに通うのは、普段少年野球チームでプレーしている子どもたち。彼らと接した際の第一印象は「笑顔がない」だった。話を聞くと、原因は普段の練習環境にあると気づいた。いろんな大人からいろんな指導を受け、何が正解か分からなくなっている。佐藤は苦しむ少年たちの姿に、自らの過去を投影していた。言われるがまま、がむしゃらに練習に明け暮れた高校時代、周りの意見を聞きすぎたプロ時代。今、目の前の少年たちに同じような経験を積ませる気にはなれなかった。
「このままでは少年野球を選択する子どもが減ってしまう」
そんな危機感さえ覚えた。
「あまり教えなくていい」
「好きにやらせたほうがいい」
「練習は短くていい」
「投げさせすぎるのは良くない」
教えすぎる、厳しすぎる日本の野球に警鐘を鳴らそうと、佐藤は講演会などで指導者らに向けて訴え続けた。しかし当時、そんな意見に耳を傾ける者はいなかった。