弁護士に聞くスポーツのハラスメント問題 パワハラが起きる理由とセクハラへの対処法
近年、アスリートによるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントの告発が注目されている。スポーツの指導現場でパワハラが発生しやすい背景や、セクハラを受けたときの対処などについて、スポーツ法務の第一線でさまざまな事件を担当する堀口雅則弁護士に話を聞いた。(取材・文=はたけ あゆみ)
スポーツ法務の第一線で事件を担当する堀口雅則弁護士に聞く
近年、アスリートによるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントの告発が注目されている。スポーツの指導現場でパワハラが発生しやすい背景や、セクハラを受けたときの対処などについて、スポーツ法務の第一線でさまざまな事件を担当する堀口雅則弁護士に話を聞いた。(取材・文=はたけ あゆみ)
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前回はスポーツ事故から発展する係争について紹介したが、「ハラスメント」が原因となるケースも多い。最近スポーツ界では、アスリートがSNSで自らの体験を発信することが増え、中にはハラスメントへの告発もあり社会の注目を集めている。今回もスポーツ法務に詳しい堀口雅則弁護士に、ハラスメントの中でも多いパワーハラスメント(パワハラ)とセクシャルハラスメント(セクハラ)に関する事案について話を聞いた。防止するためにできることを探ってみたい。
堀口氏によると、パワハラの事案では指導が行き過ぎて暴力に至るケースが多く見られるという。具体的な例を挙げれば、指導中に頬を平手打ちする、持っていた竹刀で叩く、相手を強く壁に押し付けるなどだ。またわざと体格や段位の違う者と組ませて、弱い方を痛めつけるというケースもある。球技では特定の選手だけに必要のない球拾いをさせるということもパワハラにあたりうる。
また、部活動に参加させないこともパワハラになる。メンバーから外すのは監督の裁量の範囲内とされることが多いが、部活をやめさせたり、練習に参加させないことは、スポーツをする権利を侵害しているとされることが多いためだ。弱音を吐くから周りに悪影響だというような理由で練習から外すのもパワハラになりうる。
「指導者は、選手にはスポーツをする権利があるという視点を忘れてはなりません。とはいえグレーゾーンの事案は少なく、指導者が『選手に手をあげない』『怒鳴らない』ことを徹底することで防げるパワハラが圧倒的に多い印象です。
昔だったらあえて苦しさや悔しさを味わわせ、強さにつなげるという練習が当たり前だった時代もありましたが、それも今は通じません。指導者が選手に手を出せば、暴行罪が成立しうるのです。指導として合理的な方法なのか、指導の範囲を超えていないかが、パワハラかそうでないかの境界になります」
東京五輪の空手代表に選ばれたある女子選手から、剣道の竹刀を使った稽古がパワハラにあたるという告発があったのは記憶に新しい。背が高く手足の長い外国人選手と戦うケースを想定して、指導者は竹刀を使って指導をしていたところ、女子選手の目に当たり怪我をした。告発によって指導者は、安全配慮を欠いた不適切な行為だったとして代表強化スタッフを解任(大学空手部の指導は継続)された。
「指導内容そのものは不適切な行為だったとされながらも、『パワハラ』とは認定されませんでした。どういった指導が選手にとってパワハラになるのか、明確な基準が求められています。この告発はスポーツの現場でその基準を考えるきっかけになったと捉えています」