ファジーカスが好例「毎晩21時に寝て酒も飲まず…」 プロ初の全クラブ参加、外傷障害調査が育成年代に残すもの
受け取る側のリテラシーがどうであろうと伝わる、説得力あるデータを出していく
ただし現状のBクラブにおいて、ユース、アカデミーの組織整備はまだ完成途上にある。
数野「各クラブの今後、そして日本バスケの未来を考えた上で、もっとユースに投資してもらいたい。残念ながら、今はまだユース専属のアスレティックトレーナーをフルタイムで雇用し、十分なペイができる環境は多くはありません。知識と経験のあるアスレティックトレーナーにユースを見てほしいと思いますし、そこはクラブの先行投資となります。
先ほど申し上げた外国籍選手のこともそうですが、ユースの負傷軽減やひいてはトップチームのフィジカルパフォーマンスの向上について最も大切な存在は、GMだと思います。ただし今の各クラブのGMの中に、ユース年代のフィジカルトレーニングや食事管理などに着手している人はまだまだ少ない。ある程度時間がかかるのは仕方ないと思いますし、今の我々の取り組みがいかに重要なものであるかを伝え続けていくしかありません。
少なくとも言えるのは、リーグが『この取り組みをやってください』と強制するような一方通行のやり方では、ユース向けの取り組みは絶対にうまくいかない。リーグとクラブと各チームの三位一体が欠かせません」
一方、日本のバスケットボールの発展を考える上で欠かせない存在が高校の部活動。トップリーグのデータを、最前線のトレーナーと医療専門家がタッグを組んで解析して得た知見からは、高体連のチームも大きな学びを得られることは間違いない。
吉岡「多くの高校のチームは大会などのスポット契約のトレーナーこそいても、1年を通じてチームに帯同して選手のコンディションを把握できているアスレティックトレーナーはほとんどいない。アスレティックトレーナーを年間契約で雇用できる環境づくりの難しさに気付いていても、それを解決する動きにはなっていないんです。今回のレポートはその気付きへの一助となると思います」
数野「バスケットボールのトップリーグが最高レベルの専門家と組んで導き出したデータの説得力の高さには自信を持っています。高体連のチームに関して、私たちが何かを提案する立場ではありませんが、今後、食事や栄養、フィジカルトレーニングの重要性がますます高まっていくことは、高体連の各チームも十分理解されているはず。ぜひ私たちのデータをうまく活用してほしいと思います」
ただし今のレポートの内容、そしてSCS推進チームの体制はまだまだ完璧なものではない。それは両氏とも十分理解している。
吉岡「正直に言って、どのような取り組みをした結果、負傷者が増えているのか、現在の負傷と既往歴はどのように関係しているのか、といったことの詳細までは把握できていません。現状ではまだまだ読み解けない事象もたくさんあります。でも今のデータを見て、多少なりともできることはある」
数野「実際、プレー時間が長くなれば、それだけ負傷のリスクは上がる。例えば小規模なチームで、主力選手が5人程度しかおらずその選手が毎試合30分以上出場しているような状況では、それだけ負傷のリスクは高い。フロアに立てる人数を増やし、全体のレベルを底上げすることがリスク分散になる。明確なデータを提示した上でそのことだけでも理解してもらえたら、選手の出場時間をコントロールすることが必須であることを分かってもらえるはず。
こちらとしては、難解なデータを示すだけでやった気になるようなことはありません。受け取る側のリテラシーがどうであろうと伝えなければならないことは伝わる、そんな説得力のあるデータを出していきますし、今後も日本のバスケットボール全体が発展していくために力を尽くしていくことは変わりません」