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監督が必死になり、奪った選手の夢中 近江サッカー部監督×楽天大学学長のチーム育成論

仲山さんの著書に出合い「夢中と必死の違い」を知る

――チームの雰囲気も良くて、勝ち始めるタイミングだったんですね。

前田「1年目は1年生が主体ということもあり、結果らしい結果は残せていません。2年目のインターハイで勝ち始めただけなので、僕ら自身としては『登っている!』という意識というよりは『登っていくしかない』という意識でした。当時も一番下のリーグからのスタートでしたし、登る以外なかったという感じです」

――まさに夢中の時代ですね。数年前は野洲高校に16対0で負けていたという記事も読みました。

前田「野洲高校に初めて勝ったときに、ほかの先生から『16対0で負けていたチームとは思えない』と言われて知りました(笑)。でも、強化部1期生たちが3年生になったときにはプリンスリーグには出られましたが、インターハイ出場は逃してしまいました。翌年はインターハイに出場することはできたものの選手権予選の決勝で負けてしまうなど、停滞というよりは何か理由があって負けてしまうことがあるという状況でした。僕は負けた理由を考えるときに本を読んだり話を聞きにいったりするタイプなのですが、その時に読んでいた本の中で仲山さんの著書はまさにピンときたんです。それでご連絡させていただいて、直接話を聞かせてもらいました」

仲山「いろいろとお話ししましたね。冒頭で話した夢中と必死の話でいえば、必死になっているのは、縦軸の挑戦の難易度が高くてプレッシャーが強い『不安ゾーン』です。そこにどっぷり浸かる状態になってしまいます。『勝たなければ』と必死になると『失敗できない』『失敗してはいけない』と思い込んでしまいがちです。そうすると新しいことにチャレンジできなくなったり、気持ちに余裕がなくなってしまいます。そして、監督のそういう雰囲気は選手にも伝わってしまうという話をしました」

前田「図星でした。仲山さんの本に書いてある言葉はいろいろと記憶に残っています。例えば『心理的安全性』が組織には必要という話は納得でした。振り返ってみると就任してからの1、2年目は人数が今ほど多くなくて、生徒たちのキャラも立っていたことで『ここにいていい』という安心感があったと思いますね。例えば、当時は遠征は1つのチームでまとめて行っていましたが、今は人数が多くなったことで複数のチームに分かれて行くようになっています。そうした状況を見た時に、サッカー部全体としての心理的安全性があるのかを考えるようになりました。今年の初めに部員全員で映画を観てディスカッションをしたんです」

仲山「本に出てくる、U-17日本代表でやっていたやつですね」

前田「それを早速やってみたんです。グラウンドではサッカーがうまい子が発言する機会が多いのですが、面白いことにサッカーがうまい子だけが発言するのではなく、それぞれが意見を言ったり、他人の意見に共感したりするシーンがあってうまくまとまっていたんです」

仲山「映画が題材だと、サッカーヒエラルキーに関係なく喋りやすいのがいいですよね」

前田「その通りです。本にあった通り『アルマゲドン』を観たのですが、いろいろなキャラがいることで個性が混ざったときの面白さがあるという意見も出てきたりして、『それがチームなんだよな』という話をして盛り上がりました」

仲山「映画を観た後はどんな変化があったんですか?」

前田「今まではキャプテン・副キャプテン決めやチームとしての目標は、選手たちだけで決めさせていたのですが、今年は僕たちスタッフも入っていきました。まず4年間、近江高校でこれまでやってきて、意味がないと感じたことは全てやめようと決めました。選手たちをいくつかのグループに分けてディスカッションしました。グループも毎回メンバーを変えて話せるようにスタッフが組んでくれて、議論するなかで必要なことと必要ないことを分けました」

仲山「例えばどのようなことが必要なくなったのですか?」

前田「審判や用具係など1人1役の役職を与えているのですが、必要ない役は減らしていきました。細かいことかもしれませんが、選手のストレスを減らすことにはつながったと思います。こちらが決めすぎてしまうのではなく、うまく交われる場を作るように意識しています」

後編へ続く/記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/

■前田高孝/近江高校(滋賀県彦根市)サッカー部監督

 元プロサッカー選手。シンガポールやドイツでプレー経験があり、世界を旅しながら見聞を広める。帰国後は大学サッカー部の指導に携わり、2015年4月より近江高等学校教員・サッカー部監督に就任。2年目にして滋賀県大会を制覇し、全国大会出場。3年目の2018年、高円宮杯JFA U-18サッカープリンスリーグに昇格。

■仲山進也/楽天株式会社楽天大学学長・仲山考材株式会社代表取締役

 創業期(社員20名)の楽天に入社、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」立ち上げ。2004年にヴィッセル神戸の経営に参画。2007年には楽天で唯一のフェロー風正社員となり、2008年には自らの会社である仲山考材を設立。2016~2017年にかけて横浜F・マリノスでプロ契約し、ジャイアントキリングファシリテーターとしてコーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。個人・組織・コミュニティ育成支援の専門家として活動している。著書『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』『組織にいながら、自由に働く。』『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』など。

(今井 慧 / Kei Imai)

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