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「この生きづらさから逃げたい」 高2の冬、突然の病に困惑も…広場恐怖症との共生を決意させた言葉――ゴルフ・菅沼菜々

菅沼の人生を再び動かしたのは、あるアイドルのライブだった【写真:本人提供】
菅沼の人生を再び動かしたのは、あるアイドルのライブだった【写真:本人提供】

ライブの帰り道に「もう一回ゴルフをやる」、両親は涙

 そんな彼女の人生を再び動かしたのは、厳しいトレーニングでも最新の治療でもなかった。

 高校3年の春、友人に誘われて行った横浜アリーナでの「Sexy Zone」(当時)のライブだった。

「日付まで覚えてます。5月の連休でした。5周年記念の感動的なライブで、メンバーも泣いていて。そこで中島(健人)さんが言った言葉が刺さったんです。『これから先、辛いことや苦しいこともあると思うけど、絶対大丈夫だよ』って。その瞬間、なんか全部がつながった感じがして。自分も中島さんみたいに、誰かの人生を変えられる人間になりたいって、直感的に思ったんです。あのライブがなかったら、私は今ここにいません」

 帰り道、彼女は両親に「もう一回ゴルフをやる」とLINEでメッセージを送った。それを見た両親が家で泣いていたことを、彼女は後から知らされた。翌日から練習を再開。驚くべきは、そのわずか3か月後の8月、「日本ジュニア」で優勝するという漫画のような劇的復活を遂げたことだ。

「周囲からは『本当に辞めてたの?』と疑われました(笑)。『密かに練習してたんじゃないか』って。でも、本当にやってなかったんです。一度リセットされたのが、逆に良かったのかもしれません」

 2018年のプロテストに合格し、華々しいキャリアをスタートさせた菅沼だったが、そこで新たな現実に直面する。女子ツアーは毎週のように開催地が変わる「移動のスポーツ」であるということだ。

「プロの試合がこんなに移動があるなんて、なるまで知らなかったんです(笑)。アマチュアの時は近場しか出ていなかったので、『沖縄は出られないけど、他は出られるし』って思っていたら、蓋を開けてみたら埼玉、熊本、千葉、宮崎……。こんなにやると思ってなくて、ちょっとびっくりしました」

 飛行機や新幹線が使えない彼女にとって、移動はすべて車だ。しかし、車にも「渋滞」という天敵がいる。

「高速道路で事故渋滞が起きると、逃げ場がないから心臓がバクバクして過呼吸気味になるんです。だから、私は常に“逃げ道”を確保しています。渋滞が見えたらすぐに降りる。高速道路のサイトはたぶん、私が日本で一番見てるんじゃないかってくらいチェックしています(笑)」

 彼女の頭の中には、今や日本中の道路地図が叩き込まれている。

「インター間の距離や、事故が多いポイント、トンネルの長さまで、今では“高速道路オタク”ですよ。例えばアクアライン。あそこは急な事故で動かなくなったら終わりなので、絶対に通りません。大井松田や上野原といった渋滞の名所も避けます。混んでいたら、あえて遠回りをしてでも安心できる山梨周りのルートを選ぶ。中央道のほうが通行料が高いことも分かってます(笑)」

 昨年は試合会場の宮城・仙台から次の会場となる福岡まで車で移動した。途中、石川・金沢で1泊しての移動だが、それでも1500キロの移動距離は「過去最長!」と笑い飛ばしていた。そんな苦労を苦労と思わぬ、底抜けの明るさが彼女の性格でもある。

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金 明昱

1977年生まれ。大阪府出身の在日コリアン3世。新聞社記者、編集プロダクションなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めた後、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。2011年からは女子プロゴルフの取材も開始し、日韓の女子ゴルファーと親交を深める。現在はサッカー、ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。著書に『イ・ボミ 愛される力~日本人にいちばん愛される女性ゴルファーの行動哲学(メソッド)~』(光文社)。

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