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日本とサウジの番狂わせに見たW杯の魔力 会場を包んだ「やられ役」アジア勢の反骨心

ドイツ戦でのブーイングに感じた「アジア勢の連帯」

 もっとも今大会のアジア勢は、すべてが上々の滑り出しだったわけではない。イランはイングランドに2-6で大敗しているし、オーストラリアもフランスに先制こそしたものの1-4で屈服。そしてカタールはエクアドルに0-2で敗れ、W杯史上初めて「初戦で敗れたホスト国」となってしまった。

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 そんななか、最後の登場となった韓国は、明らかにドイツに勝利した日本に刺激を受けていた。南米のタレント集団であるウルグアイに対し、序盤からペース配分無視のテンションで襲いかかり、前半はボール支配率でも圧倒した。結局、2本のポスト直撃にも救われて、スコアレスドローで終了。さすがに「二度あることは三度ある」とはならなかったものの、サウジアラビアと日本が起こした奇跡が、アジア勢全体にポジティブな影響を与えていることは確かだ。

 そういえばドイツVS日本で、こんなシーンがあった。日本が逆転に成功した直後、堂安律が相手DFに倒されてノーファウルの判定となった時、スタンド全体で大きなブーイングが沸き起こったのである。そしてアディショナルタイム、ドイツが完全にパワープレーに振り切り、GKのマヌエル・ノイアーがセットプレーに参加した時には、ブーイングが最高潮に達した。

 そこに私は、今大会特有の「アジア勢の連帯」を見る思いがした。アジア予選やアジアカップでは絶対に負けられない相手だが、本大会で強豪と対戦するライバルにはシンパシーを隠せない。そんな思いが、ドイツ戦でのブーイングからはダイレクトに感じられた。

 快挙の陰でつい忘れられがちだが、アジア勢がW杯本大会で勝利するのは、実は並大抵のことではない。日本が過去6大会で勝利したのは5試合。サウジアラビアは5大会でわずかに3試合だ。むしろドイツに0-8とか(2002年)、ロシアに0-5とか(2018年)、完膚なきまでに叩きのめされてきた試合も少なくない。アルゼンチン戦勝利の翌日、サウジアラビア本国が祝日となったことも、そうした苦難の歴史を思えば納得もできよう。

 日本とサウジアラビアの快挙は、他のアジア勢に対して「俺たちはもはや『やられ役』ではない!」という高らかな宣言となった。こうしたムーブメントが、グループリーグ2巡目にも波及し、さらに大会が面白くなることを期待したい。

(宇都宮 徹壱 / Tetsuichi Utsunomiya)



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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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