変わろう、野球 筒香嘉智の言葉「日本で使われている金属バットの弊害は大きい」
日本ではバットの反発係数に明確な規定はなし
今年1月、自身がスーパーバイザーを務める硬式野球チーム「堺ビッグボーイズ小学部」の体験会に参加した筒香は、野球界に対する問題提起の一つとして「金属バット」について触れた。
「日本では2017年、夏の甲子園のホームラン記録が更新されました。もちろん、優秀な打者が記録を破ったのですが、バットのおかげで飛んだ打球も目にします。これは子ども達のためになっていないと思います。木製バットに変わってから苦労するのは子ども達です。事実、僕も慣れるまでに時間が掛かりました。周りでも苦労した選手を何人も見てきましたし、克服できずにキャリアを終えてしまう人もいました」
金属バットと木製バットの大きな違いは、ボールの反発力だ。バットメーカー、美津和タイガー株式会社の調べによると、バットを振る速度が同じ場合、金属バットは木製バットの約1.5~2倍の反発係数を持つという。つまり、打球が遠くに飛びやすいというわけだ。言い換えるなら、金属バットの場合、ボールを芯で捉えなくても打球が飛ぶ。道具の性能が打者の技術を補ってしまうのだ。筒香はこの点を問題視している。
野球規則では、アマチュアで使用する金属バットは最大直径67ミリ未満、質量は900グラム以上と定めているが、反発係数に関する規定はない。日本高野連の「高校野球用具の使用制限」を見てみると、金属バットは製品安全協会の「SGマーク」があるものに限ると記されている。だが、非木製バットのSG基準ではソフトボール一般用バットの反発性能に関する規定はあるものの、硬式用と軟式用にはない。
海外に目を向けると、全米大学体育協会(NCAA)と全米州立高校協会(NFHS)ではBBCOR(Bat-Ball Coefficient of Restitution)と呼ばれる反発係数基準が採用され、金属バットは木製バットの反発係数と同等の0.50以下のものしか試合で使用することができない。全米アマチュア野球連盟(USA Baseball)でもこの基準に倣い、日本では2018年からリトルリーグとポニーリーグが全米アマチュア野球連盟に準じている。
NCAAでBBCOR基準が採用されたのは2011年のこと。元々は金属バットの打球速度が速く、投手や観客らがボールを避けきれず直撃する事故が多発したため、安全性を考えた上でのことだった。だが、打球が飛びすぎないことの副産物として、打者はよりバットの芯で捉える打撃を心掛け、身に付けるようになったという。そのため、プロで木製バットを使うようになってもスムーズに移行。事実、メジャーやマイナーの打者でバットの違いに苦しんだという話は聞かない。また、日米大学野球のような国際大会では木製バットが使用されるが、昨年の日米大学野球では、普段から木製バットを使う日本が全5試合で12得点だったのに対し、アメリカ代表は14点とわずかながら上回った。他の世代の国際大会を見ても、U-18世代では木製バット、それより下の世代ではBBCOR仕様の飛ばない金属バットを採用。飛ぶ金属バットは世界基準を逆行しているようにも見える。