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失ってはいけない敗者へのリスペクト 激闘後の「勝者の振る舞い」にサッカー選手の本質が表れる

スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。連載最終回のテーマは「勝者の振る舞い」。ピッチ上でお互いの意地がぶつかり合う試合では、双方の選手が熱くなり過ぎる光景が見られる。時には勝者が敗者を煽る仕草を見せることもあるが、相手への敬意を欠いた行為は自らの首を絞めることになると警鐘を鳴らす。

カタールW杯準々決勝の勝利直後にモドリッチ(右)はPKを失敗したロドリゴのもとへ。勝者が敗者の健闘を称える美しい光景だった【写真:Getty Images】
カタールW杯準々決勝の勝利直後にモドリッチ(右)はPKを失敗したロドリゴのもとへ。勝者が敗者の健闘を称える美しい光景だった【写真:Getty Images】

連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」: 育成年代で教えるべきモラル

 スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。連載最終回のテーマは「勝者の振る舞い」。ピッチ上でお互いの意地がぶつかり合う試合では、双方の選手が熱くなり過ぎる光景が見られる。時には勝者が敗者を煽る仕草を見せることもあるが、相手への敬意を欠いた行為は自らの首を絞めることになると警鐘を鳴らす。

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 サッカーはコンタクトありきのスポーツである。11人対11人がしのぎを削る。接触の中で、真の価値が見出される。

<いかにボールを自在に操れるか>

 それはサッカーの本質だが、それも敵選手と対峙し、接近、接触する中での精度を指している。誰もいないところで、どれだけ見事なボールさばきをしても意味はない。

「デュエル」

 それはヴァイッド・ハリルホジッチ前日本代表監督が流行らせたフレーズだが、球際での対人格闘を意味している。激しいぶつかり合いに勝てるか。そこに勝負の際がある。

 それぞれが意地をかけたぶつかり合いになる。

 必然的に、度を過ぎたやりとりになることもあるだろう。反則の定義を超えない、そのギリギリを狙い、攻防を繰り広げる。力が入った凌ぎ合いになって、どちらかも我慢しきれず、喧嘩騒ぎに発展することもあるだろう。

 そうした戦闘が日常茶飯事だからこそ、その土台には敵を敬う気持ちがないといけない。

「勝者は敗者に対して驕るな」

 スペインサッカーにおいて、これは一つの鉄則である。どれだけピッチで牙を見せ合っていた仲でも、決着がついたらリセットする。興奮をピッチ外には持ち込んではいけない。

 特に勝者が敗者を侮辱することは許されず、もしやってしまったら、その時点で勝者は敗者以下に転落する。

 カタールW杯、アルゼンチン代表がオランダ代表をPK合戦で下した瞬間、これ見よがしに勝ちを誇ったジェスチャーが国際的に批判された。「その程度」と侮るなかれ。これは遺恨につながるもので、決して美しい光景ではなかった。

 育成で教えるべきは、どんな戦術よりも、そのモラルかもしれない。

 2年以上にわたって続いた連載の締めくくりは、サッカーモラルについて記すことにした。

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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