[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト

私は矛盾した芸当を試みた 挑戦をやめず、涙した田中希実が書き記す「世界陸上の全貌」【田中希実の考えごと】

陸上女子中長距離の田中希実(豊田自動織機)は複数種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる。達観した思考も魅力的な23歳の彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を配信する。

オレゴン世界陸上女子5000メートル予選のフィニッシュ直後に倒れ込む田中希実【写真:Getty Images】
オレゴン世界陸上女子5000メートル予選のフィニッシュ直後に倒れ込む田中希実【写真:Getty Images】

本人執筆の連載「田中希実の考えごと」、第1回「世界陸上で出た涙の正体~3種目挑戦の全貌~(前編)」

 陸上女子中長距離の田中希実(豊田自動織機)は複数種目で日本記録を持つトップランナーである一方、スポーツ界屈指の読書家としても知られる。達観した思考も魅力的な23歳の彼女は今、何を想い、勝負の世界を生きているのか。「THE ANSWER」では、陸上の話はもちろん、日常の出来事や感性を自らの筆で綴る特別コラム「田中希実の考えごと」を配信する。

【注目】育成とその先の未来へ 野球少年・少女、保護者や指導者が知りたい現場の今を発信、野球育成解決サイト「First Pitch」はこちら

 長年の日記によって培われた文章力を駆使する不定期連載。9月に配信したプロローグに続く第1回は「世界陸上で出た涙の正体~3種目挑戦の全貌~(前編)」をしたためた。7月のオレゴン世界陸上は800メートル、1500メートル、5000メートルで9日間5レースに出場。日本人初となる異例の3種目挑戦だったが、結果は振るわず大粒の涙を流した。当時、「何の涙かわからない」と漏らして5か月。本人がその全貌を前後編にわたってつづる。

 ◇ ◇ ◇

 過程より結果。この言葉に反感をもつのは、自分が負けられないことに対するプレッシャーから逃げたいからだろうか。それとも、他の「結果が出せない」アスリートに同情するからだろうか。「結果より過程」とかいう常套句に酔ってるからだろうか。「スポーツの価値」とか考えて偉ぶってるからだろうか。

 世界陸上を振り返っての感想は、特にない。何も結果が残せなかったという虚しさがあり、かといって次こそ世界で結果を残せる確信がもてないからこそ、あの経験をどう結論づけていいのか分からない。

 日本で誰も挑戦したことのない3種目。プロならば、過程より結果だという意見を覆す「結果」を出すんだと矛盾した芸当を試み、その結果は……。

 まず走ったのは1500m。初日の予選が一番緊張していた。多分、去年オリンピックの決勝に残った分、予選落ちは論外だと恐れていたのだろう。最終組だったおかげで、4分5秒くらいで走れば拾われるとスタート前に確認でき、序盤は先頭でペースを作った。事実シーズンベストの4分5秒で走れたし、拾われた。

 拾われることを目指して走る時点で、去年みたいに着順を目指したオリンピックとは違うメンタリティにいたのだろう。先頭を走るという行為も、積極性があるようで全然中身は違っている。しかし、今年は参加標準の4分4秒で走れたことさえなかったのだ。世界陸上の雰囲気に助けられれば4分5秒では走れると思って、それができたに過ぎない。

 とはいえそれで気をよくし、やっと一息つくことができた。予選落ちは免れ、準決勝はやっと等身大の自分で戦えると思った。

 2日目の準決勝も最終組だった。今度は4分2、3秒あたりがラインになってくるが、そのペースを自分で作れる自信は相変わらずなかった。準決勝のメンバーは、みんな普通に走ってそれくらいの実力があるんだから、わざわざ自分が前に出る必要もないと思っていた。タイムより、今度こそ着順を狙って食らいつく方が、結果的に着順が取れなくても、拾われるほどのタイムを引き出してもらえるだろう。

 そして蓋を開けたら、誰も前に出たがらなかった。中距離種目は実力通りにいかない可能性も高いのでみんな死に物狂いだ。そのため普通なら、後ろの組に行くほどタイムは上がっていくものらしいのに。アメリカのコーチ陣でさえ、このレースを見てみんな首を捻ったという。

 とにかくこのままではまずいと前に出たが、それで4分2、3秒のペースに戻せるなら苦労はない。途中までペーサーになって、あとはポケットされ、ラスト100m、自分にしては足が残っていると思ったのに、転倒に巻き込まれるなど、スパートのタイミングさえ逃す位置にいた。

 決勝は指の間から滑り落ちた。

1 2

田中 希実

 1999年9月4日、兵庫・小野市生まれ。ランニングイベントの企画・運営をする父、市民ランナーの母に影響を受け、幼い頃から走ることが身近にある環境で育った。中学から本格的に陸上を始め、兵庫・西脇工高に進学。同志社大を経て、豊田自動織機へ。2023年4月からNew Balance所属となり、プロ転向した。東京五輪は1500メートルで日本人初の8位入賞するなど、複数種目で日本記録を保持する。趣味は読書。好きな本のジャンルは児童文学。とりわけ現実世界に不思議が入り混じった「エブリデイ・マジック」が大好物。公式インスタグラムは「@nozomi_tanaka_official

W-ANS ACADEMY
ポカリスエット ゼリー|ポカリスエット公式サイト|大塚製薬
DAZN
ABEMA Jleague
スマートコーチは、専門コーチとネットでつながり、動画の送りあいで上達を目指す新しい形のオンラインレッスンプラットフォーム
THE ANSWER的「国際女性ウィーク」
N-FADP
#青春のアザーカット
One Rugby関連記事へ
THE ANSWER 取材記者・WEBアシスタント募集