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指導者が“分かった気”になったら終わり 名将の言葉に感じた「アップデート」の重要性

「あの時は」と昔語りをする指導者は選手を辟易させる

 プロの世界では、いわゆる「天才」は通用しない。むしろ、それはドロップアウトした選手を慰めるために使われる表現だろう。ある時点で天才であっても、才能をアップデートできなかったら、たちまち置いていかれる。天才であることに胡坐をかいたら、その先はないのだ。

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 世界一のキックを誇ったMFシャビ・アロンソは少年時代、試合中に届かないロングキックを蹴った。コーチに「届かないなら、近くにパスしろ!」と注意されても、「見えているのに、出せないのはおかしい。味方が完全にフリーで待っている」と言い張った。そして強いキックを蹴るため、誰よりも練習した。日が暮れても壁にボールを蹴り、今もその壁には無数のボールの跡が残るほどだ。

 やがてキックを向上させたシャビ・アロンソは、世界を轟かせるパスを出せるようになった。

 指導者の仕事は難しい。まずは選手自身に考えさせることだろう。そして、アップデートを求める。一つの時点での才能など、儚いものだ。

 同時に、指導者が自らの経験や技術をアップデートすべきだろう。サッカーを分かった気になった時点で終わりである。

 例えばJリーグ草創期に活躍し、引退してから監督に転身後、「あの時は」と昔語りをする指導者は、現役の選手をひどく辟易させる。華やかだった現役時代を持ち出す。なぜ、自分のようなプレーができないのか。

 これで、プレーを革新できるはずはない。

 筆者はジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)がバルサの育成の頂点であるBチームの監督を務めていた時、幸運にも話をする機会を得た。当時、バルサBの司令塔にはマルク・クロッサスというMFがいて、背筋を凛と張り、腰を低くし、軽やかにボールをさばく姿が優雅で、現役時代のグアルディオラと瓜二つだった。

 思わず、心躍らせながら訊いた。

――クロッサスはあなたと似たプレーメーカーですね?

「自分と似たような選手は要らない」 

 グアルディオラはにべもなかった。

「自分と同じだったら、今のサッカーでは通用しない。立ち姿など、サッカーにはほとんど関係ないんだよ。例えばシャビや(アンドレス・)イニエスタは、私にはない得点感覚を持っていた。ラインをブレイクする能力もあった。バルサのようなクラブでは、同じプレーメーカーのポジションでも、常にプレーを革新させる選手でないと通用しないんだ」

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小宮 良之

1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。

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