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日本の部活改革で議論の的に 全米も悩む指導者コスト問題、誰が負担するべきか

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「運動部のコスト負担問題」について。

部活動指導の教員コストについて米国の現状から考える(写真はイメージ)
部活動指導の教員コストについて米国の現状から考える(写真はイメージ)

連載「Sports From USA」―今回は「運動部のコスト負担問題」

「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回は「運動部のコスト負担問題」について。

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 日本の運動部活動は教員が長時間の指導を無償で担うことで成り立ってきた。しかし、教員の負担が大きいことが指摘され、最近では、外部から指導者を迎えたり、地域連携したりすることも始まっている。指導者報酬などのコストは誰が(どこが)負担するべきかについても議論され、地域と連携して行う週休日の活動については参加費を徴収するなど受益者負担も検討されている。

 学校で運動部活動をする米国でも、活動の全てのコストを公的なお金でカバーするのか、受益者が負担して不足分を補うのかが、少なくとも1970年頃から議論されている。そして、今も続いているのだ。(米国の参加費の支払いは、地域の活動ではなく、あくまでも学校運動部を対象としている)

 米国の公立学校は、連邦政府、州と、学区からの税収を財源としており、税収が減ると教育予算もカットされることがある。そのときには、運動部を含む課外活動の予算も削減対象になる。運動部のチーム数を減らして対応することは一つの策だが、やりたい生徒のいる運動部をスパっと切ることは難しい。反対する人が多いからだ。こういったことから、参加する生徒から参加費を支払ってもらう受益者負担が導入されてきた。運動部活動に必要なコストは指導者報酬だけでなく、試合会場へのバス、各州の体育協会に収める参加費、ユニフォーム、用具、設備などが含まれている。

 そうはいっても、無償で提供している義務教育(州によって違いはあるが、米国では少なくとも高校の途中までは義務教育)の場で生徒から参加費を徴収してもよいのかが問われ、いくつかの州では法廷で争われてきた。

 1970年にはアイダホ州で公立学校が課外活動の参加費を徴収することを巡って裁判で争われている。このときには、課外活動は高校卒業に必須の条件ではないので、参加費を徴収してもよいとの判決だった。この判例に基づき、複数の州でも、学業成績や単位と関係なく、なおかつ、参加を義務付けない課外活動であれば、参加費を徴収できると判断された。1982年の調査によると、全米の高校の11%で課外活動の参加費を徴収していたそうだ。

 しかし、1984年に、カリフォルニア州が州の無償教育の保障に反するとして、運動部を含む課外活動における参加費の徴収を禁じた。1997年に発表された調査(The Legality of High School Athletic Fee)によると、参加費の徴収を禁じているのは全米で5州あり、カリフォルニア、ニューヨーク、カンザス、ニュージャージー、アイオワであり(違法ではないが、このほかの12州でも徴収してはいけないとされた=2022年1月23日追記)、一度は参加費徴収を認めたアイダホでも、違法ではないが、徴収しない方針に転じたという。

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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