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【今、伝えたいこと】岩に恋した22歳、大場美和が登り続ける理由「クライマーの挑戦に限界はない」

危険と隣り合わせの競技で大場は岩を登り続ける
危険と隣り合わせの競技で大場は岩を登り続ける

「人類にはまだ登れない岩がある」―クライマーでいる限り終わりのない挑戦

 この春、スポーツ界を襲った新型コロナウイルス。大場がかつて心血を注いだスポーツクライミングも大きな影響を受けた。

 大会はもちろん、選手は練習も満足にできない状況に陥った。しかも、スポンサーから金銭的なサポートを受けられる者は「東京五輪候補」といわれる、ひと握りのトップ層のみ。それ以外の多くはクライミングジムなどで働きながら、生計を立て、競技を続けている。しかし、クライミングジムも営業が難しく、収入が減った選手も増えているという。大場も選手たちの胸中を慮る。

「いつ感染が収まるか、大会ができるかわからない状態でトレーニングを続けてきた。それはつらいだろうなと思います。多くのクライマーが改めて、クライミングができるのは安定した社会環境があった上でのことと痛感している。普段、クライミングができていたのは、どれだけ幸せなことだったのか。どうすればクライミングの文化を守っていけるか考えるきっかけになりました」

 それでも、収束すれば、待っている未来は暗くはないはずだ。1年延期となった東京五輪では、かつて戦った野口、野中を筆頭に、男子も楢崎智亜らメダル候補が揃い、期待が集まる。大場も「五輪は3種目の複合なので展開が読めず、順位も入れ替わる。選手それぞれ登り方もスタイルも違い、想定されたルートを壊して登ってしまうところも含めて楽しんでほしい」とアピールした。

 スポーツクライミングもフリークライミングも、共通することがある。スタートとゴールだけ決まっていて、登り方に正解はないということ。選手の数だけ、登る方法がある。「すごく自由なスポーツ」という競技だから、もっと広まってほしいと願う。

「クライミングには、それぞれにとってのクライミングがあると思うんです。それは、どんな形でもいい。競技として世界を目指すのでもいいし、私のように岩に上って自分の限界に挑戦するのでもいい。あるいは日常生活にエクササイズでやるのでもいい。人の個性に合ったクライミングの形があると思うので、たくさんの人がクライミングを通して楽しい人生になったら嬉しいです」

 自身はフリークライマーとして、文字通り、高い場所を目指していく。「世界的な記録を残せるような実力はないけど、私自身の限界に挑戦していく姿を見せ続けたい。岩も面白いし、カッコいいんだよと伝えたい」とプロ選手として理想を追い求める。

 フリークライミングには「岩と会話する」感覚があるという。「最近、これが岩と会話する感覚なのかなって気づいたんです」。普段は意識が先行するが、無意識に体が動き、正解のルートに導かれることがある。自然を相手にする競技だから奥が深い。

「今、世界にある岩で課題として発表されているものに限りはあるけど、人類にはまだ登れない岩もある。だから、クライマーとしての挑戦に限界はない。単純に一つの課題を登ることじゃなく、クライミングで成長していくことが目的にあると思います」

 インタビュー中、何度も繰り返した「成長」というフレーズ。競技の危険性が話題に上がった時、「確かに、ここで落ちたら怪我するなあ、と思うこともありますよ」と笑った。「それでも、登る理由はなぜですか」と聞くと、こんな言葉が返ってきた。「やっぱり、なんだろう。たぶん、その岩を登ることが本当の目的じゃなく、登るたびに弱点が見えて、成長できるからかな」と。

 自然という戦いの舞台で「自分」に挑み続ける大場美和。挑戦の数だけ得られる成長に、終わりはない。

■大場 美和(おおば・みわ)

 1998年3月7日生まれ、愛知県出身。9歳からクライミングを始め、ユース年代から活躍。得意としていたボルダリングでは17歳で日本代表入り。トップ選手として長年活躍した。20歳だった18年を最後に第一線を退き、フリークライミングに活動に軸足を置く。インスタグラムで岩を登る動画も積極的に公開。また、スポーツクライミングの解説など、競技の普及活動にも尽力している。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)

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