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野球医学は「治して終わり」ではない 「野球選手の未来をつくる」再発予防の道

馬見塚氏は指導者の「人材育成」についての議論が必要だと言う【写真:齋藤暁経】
馬見塚氏は指導者の「人材育成」についての議論が必要だと言う【写真:齋藤暁経】

「治療して終わり」ではなく「再発予防」へのスポーツ医療、サイエンスの知識が欠かせない

――スポーツに関わる子ども、保護者、指導者の方に対して、スポーツ医療の知識・理解の重要性についてメッセージをいただけますか。

「『三次予防』という言葉があります。再発予防という意味で、故障をしたときにどんな練習をしていたのかを評価し、治療して終わるのではなく、再発予防するためにコンディションに合わせたトレーニングプログラムを提案します。

 例えば、試合で150球投げるのであれば、練習で50球しか投げ込まないのではなくて、投球強度を落としてまず150球を投げる練習から始めていきましょう。そして、少しずつその強度を上げていきましょうと。

 投球障害(※)リスクのペンタゴンのバランスを考えるとこうなります。工学部の材料工学で、疲労現象や何回も動かして壊れるという現象は、回数、強度、力の伝わる方向、コンディショニング、実験条件、個体差、物性、と原因を分解することができます。

 投球数を増やしたいのであれば、投球強度を落とすとか投球フォームを改善するとか、冬じゃなくて夏のコンディションのいい時期にやるとか、原因となる5つのレーダーチャートを作る。そういうものを学んで取り組むといいかなと思います。

 故障を予防する、治療した後の再発を防止する。そういったことはスポーツ医療の知識や理解がないとできないことであり、私のクリニックでは、これらを包括的に提供しています」

――最後に、スポーツ医療やスポーツ科学に知見が少ない指導者の方たちに対して、今日からできる指導改善の第一歩を教えていただけますか。

「改善しようと思っている人は、おそらくすでに取り組んでいるはずなので、まだ気づいていない人の意識をどう変えていくかが重要だと思います。ひとつの方法として、指導者ライセンス、指導要領をうまく活用することだと思います。

指導者にはスポーツパフォーマンスの向上というミッションがありますが、実際は人材育成へ貢献するという価値もかなり高いと思っていまして。そうすると新しい時代の人材育成がどうあるべきかについても議論されないといけません。

 アメリカに行ったときに見てきたこととして、アメリカでは良くない行動をした学生に対して、監督は『神が見ているぞ』って言うだけなんですよね。変化を強制しようとしていないんです。『神が見ているぞ』と言うだけ。アメリカの人材育成は、家庭、地域、学校、スポーツ、宗教の5つの規範があるんですね。

 一方、日本は家庭、学校、スポーツ……。地域との関係性は薄くなってきていますし、宗教はなじみが薄い。だから人材育成におけるスポーツの影響力がアメリカに比べてとても大きいと感じました。日本におけるスポーツの価値について盛んに議論されていますが、ビジネス的価値を指す場合が多い。ですが、ライフスキルや非認知能力をスポーツによって育成できることはもっと広く認知されるべきです。

 人材育成という観点でも指導者が適切な指導を行えるような指導要項を整備し選手育成できるような形に持っていければ、諸外国に負けないと思います。スポーツを通じて、アメリカや中国などに負けない人材育成ができると本気で思っているのですが、理想が高すぎますでしょうか?(笑)」

――壮大ですね! 興味深いお話をありがとうございました。

※投球障害肩のこと。投球動作を繰り返すことで、肩に痛みが生じたり投球が困難になる状態。繰り返し投球動作を行うことで肩甲骨や肩周りの筋肉が硬くなり、肩に負担がかかり痛めてしまう。

■馬見塚尚孝 「ベースボール&スポーツクリニック」野球医学センター長

 筑波大学の整形外科医として勤務。34歳で筑波大学博士課程に進み、腱反射を数量化するシステムの研究開発に携わる。2006年より筑波大学硬式野球部チームドクターとして活動。首都大学野球連盟で取り組んだ安全対策パンフレットの作成や、投球数制限のルール化などに関わる。その後、西別府病院スポーツ医学センター(大分県別府市)の「野球医学科」立ち上げに携わり、2019年にはスポーツ選手を対象とした専門クリニック「ベースボール&スポーツクリニック」(神奈川県川崎市)を開業。プロ野球選手を含め多くの野球選手の治療・育成経験を持つ。
『野球医学の教科書』(https://www.facebook.com/yakyuigaku/

(記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/

(今井 慧 / Kei Imai)

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