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「スポーツ根性論、精神論の限界」 格闘技ドクターが語る、本当の「強さ」とは

スポーツドクターとして、これまで数多くの選手をサポートしてきた二重作拓也医師。スポーツ根性論や精神論は選手生命を短くするだけでなく、選手の長い人生に深刻なダメージを与えることがある。臨床や指導者指導の現場から、選手を本当に守るためにはいま何が必要かを語る。

インタビューで語った二重作拓也医師
インタビューで語った二重作拓也医師

二重作拓也医師インタビュー、いまだに残る前近代的なスポーツの現場

 スポーツドクターとして、これまで数多くの選手をサポートしてきた二重作拓也医師。スポーツ根性論や精神論は選手生命を短くするだけでなく、選手の長い人生に深刻なダメージを与えることがある。臨床や指導者指導の現場から、選手を本当に守るためにはいま何が必要かを語る。

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 私は臨床医やスポーツドクターとしてだけでなく、格闘技実践者、指導者指導、医学情報発信者、といった複数の立場でスポーツと接しています。その中で感じるのは、いまだに前近代的なスポーツ現場があるということです。人間の理に合わない練習をやればやるほど、怪我や傷害は積み重なり、人として弱くなってしまうわけですが、プレーヤーの中には自分で考え納得したからではなく、指導者や先輩に言われたから、という理由でむちゃな練習をする人も少なくありません。

 そのスポーツが大好きなのに怪我や故障で継続できなくなった、怪我さえなければもっとうまくなれたのに不本意に終わった、などのケースも医師として診てきました。今回のコラムでは、これらの背景にあるスポーツ根性論、精神論について読者の皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 ひとつ症例をご紹介しましょう。

 以前、足関節靭帯(前距腓靭帯)を痛めて私の外来に来院した高校2年生の女子バレー部の主将がいました。診察の結果、比較的軽度(1度の損傷)でしたのでブレース(整形外科の治療で使用する着脱可能な装具)での固定、数週間のスポーツの禁止、消炎薬の処方を行い、「日常生活はブレース固定下でOK」「しばらくは歩行以外では足首を使わないよう」「部活は見学にしておいてね」と指示して帰したのですが、部活で指導者に「そのくらいならやれるだろう」「歩いて部活に来られるのだからやれ」と練習を強要されていました。

 次の日、彼女は泣きながら外来にやって来ました。診察の結果、幸いなことに悪化は免れたものの、このままの生活では完全断裂も時間の問題でした。そこで、医学的には少し大げさですが「シーネ」と呼ばれるギプスの半分くらいの着脱可能な外固定具をつけ、さらに松葉杖を処方し、診断書に「2週間のスポーツ活動を禁止する、練習復帰に関しては受診時に医学的な判断の下に決定していく」という内容を記しました。ここまで明確に可視化しなければ、練習を休めない。「スポーツ医学の壁」を痛感した出来事でした。

 このような無理解の環境下で無理を続けてしまうと、フィジカルのダメージが深刻化するだけでなく、選手のメンタルもどんどん弱っていきます。バレーボールが大好きで始めたのに、いつの間にか監督や顧問、コーチら「大人の期待に応えること」が最優先になる。結果的にパフォーマンスが上がらないどころかバレーボールを続けられなくなるくらい心が擦り切れてしまう。このように相当数の若き才能がスポーツ精神論、根性論の被害者になっている現状があります。

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