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敢えてネガティブに表現する魅力は「我慢」 柔道は人をどう育てるのか、減りゆく競技人口への危惧――柔道・大野将平

伝統、歴史を継承する一方で「生涯スポーツとしての楽しさ」が求められる【写真:Getty Images】
伝統、歴史を継承する一方で「生涯スポーツとしての楽しさ」が求められる【写真:Getty Images】

伝統、歴史を継承する一方で求められる「生涯スポーツとしての楽しさ」

 リオ五輪が終わって1年ほど競技から離れ、(天理大学)大学院の修士論文を書くにあたって嘉納治五郎先生、岡野功先生らの文献を読み、畳、道場ではなく机に向かって柔道を学ぶ貴重な時間がありました。私自身、講道学舎、天理大学といった伝統を重んじる環境、そこで学んできたスタイル、精神性というものは自分が追求していく道だと再確認できましたし、だからこそ東京五輪で金メダルを獲る大義も見つかりました。

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 自分の心と体を削りながら、そういったものを燃料にしながら、もはや自分に削るものがないくらい柔道に懸けていました。それが良かったか悪かったかは分からないですし、だからこれからの選手たちに、それくらいの覚悟で戦え、などと自分の口からは言えません。ただはっきりと言えるのは、我慢というものが自分に形成され、今後の人生においてどんなことがあろうとも我慢しながら成し遂げていくという作業ができる、強くて深い自信につながっているのかなとは思います。

 しかしながらこれからの時代、私のような考えを持って柔道に打ち込む、そのハードルの高さは理解しているつもりです。

 伝統、歴史をきちんと継承していくことはもちろん大切です。その一方で欧州に来て感じているように生涯スポーツとして楽しくやるということも抜け落ちてはならないとも感じています。

 柔道に対して敷居を高く感じる人は多いかもしれません。やはり入り口をどうしていくか。子どもから大人まで習いやすいような環境づくりというものを業界全体で考えていく必要があると感じています。
 
 その意味でも役割分担が重要になってくるのではないでしょうか。
 
 柔道としっかり向き合う伝統的な道場がなくてはならない一方で、たとえば健康を目的に柔道をエクササイズとしてやる道場があればいい。両方を網羅できる道場というのはなかなか難しいと思うので、いろんな先生が知恵を絞りながら役割分担していかないとこの日本において柔道人口が減少していくばかりではないだろうかと危惧を覚えています。

 昨年、全日本ジュニアの選手たちとオンラインで話をする機会がありました。私のほうからも、柔道をやっていることの良さについて質問したところ、大体が「礼に始まって礼に終わる」「礼儀正しくなる」などといった回答でした。もちろんその良さはあるにしても、柔道の“専売特許”ではないように思います。

 柔道の教育的側面も考えていく必要もあるでしょう。自分の競技力が上がっていけばいくほど、私のように楽しさからかけ離れてしまってもおかしくありません。もし競技力だけを追い求めてしまうと、人間力の育成がおろそかになってしまうところもあります。こういったことも含めて、バランスを良くしていくことがとても大切だと考えます。

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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