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「五輪かけた演技直前のトイレで生理が…」 食べる事は悪と刷り込まれ、体重にも月経にも無知だった過去――フィギュア・村上佳菜子「女性アスリートと体重管理」

代表選考会の演技直前に生理が来たことを打ち明けた村上さん【写真:荒川祐史】
代表選考会の演技直前に生理が来たことを打ち明けた村上さん【写真:荒川祐史】

自分の体をコントロールできなかった現役時代、ソチ五輪代表選考会の演技直前に生理が…

 体重で悩み始めたのは18歳。体の成長が遅く、初めて生理が来たのもその頃。それを機に体型変化が起こった。ちょうど2014年ソチ五輪シーズン目前。

「同じくらい追い込んでいるのに、太り出しました。脂肪がつく感じが分かるようになって、先生(コーチ)からも『(スピンで)回っている時にお尻が揺れてる』『動きが重いよ』と、体型のことをすごく言われました。選手同士でも食事制限している子のことは意識してしまう。『あの子は食べてないのに私、食べてる』と罪悪感を覚えたり、『何、食べてる? 私はこうだよ』とマウントを取り合ったり。背も大学に入学して伸びたこともあって、体型のことがより切実になりました」

 ただでさえ肌の露出が多く、ボディラインが分かりやすい衣装。体型は周りとすぐに比較できる。練習場は鏡に囲まれ、前を通るたびに自分の脚を見る癖がついた。大会やアイスショーで他のスケーターと並ぶと、どうすれば脚が細く見えるかを意識し、写真に納まった。

 とにかく痩せなきゃ。村上さんの頭を支配し始めたのは、盲目的な思考。

 やると決めたら、とことんやり抜く生真面目な性格。食事量を制限し、一気に4キロも減量したこともある。毎週、練習場で会うコーチらにかけられる「見るたびに痩せていくね」という言葉がうれしかった。食事の代わりに、栄養補給食だけ食べる自分を褒めたくなった。

 生理にも無頓着。思っていたのは「来なければ、来ない方がいい」。生理は邪魔なもの。初潮が遅く周囲にホルモン剤の注射を勧められたが、母が断った。過度な食事制限もあってか、常に生理不順。1か月で来ることもあれば、3か月、半年来ないことも。来そうと思って来なかったり、来なさそうと思って急に来たり。

 自分で自分の体をコントロールできない。それを象徴するエピソードがある。

 ソチ五輪の代表選考をかねた2013年12月の全日本選手権、すべてが決まるフリープログラム。当時19歳だった村上さんは演技直前に行う6分間練習を終え、自分の出番まで十数分の間にトイレに行くと「(生理が)来た」と気付いた。競技人生をかけた大一番直前、動揺するタイミング。

「でも、『ああ、来たんだ』と思うと、気持ちがそちら(動揺)に持っていかれちゃうから『来てない、何も見てない』と思い込ませて、知らないふりをして演技しました。衣装が白だったら大変だったなと思うけど、本当にいつ生理が来るかも分からない。ずっとそんな状態でした」

 にもかかわらず、ほぼパーフェクトな演技を披露し、結果は2位。見事にオリンピック切符を掴んだ。

 こうして体重や生理の話を聞いていると、“競技”を優先するあまり、“自分の体”は二の次に映る。

 疲労骨折が多かった村上さん。月経不順はその原因のひとつとされるが、「そうなんですか? 初めて知りました。だから私、多かったんだ」と笑う。「でも、疲労骨折くらいなら練習できるという感覚。(自分の体を)深く考えたこともなくて、こう話すと相当過酷なところにいたんだと改めて思います」と正直に話してくれた。

 もちろん、強靭な精神力とそれに裏打ちされた練習量が競技に生きることは紛れもない事実。村上さんも「自分だけじゃなく、周りも同じような環境で練習していたので、自分が特別厳しかったという想いもあまりない。それくらいやったからオリンピックまで行けたと思っているし、後悔もしていないんです」と打ち明けた。

 しかし、今いる環境が正しい、正しくないと考える余裕も、判断する材料もなかったことは見逃せない。一歩間違えば、将来にもつながる健康障害を起こすからだ。

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