NYの街中で「クレオパトラの子?」 安藤美姫がフィギュア選手として求めたメイクの流儀
最も思い入れの強いメイクは「バンクーバー五輪のフリー」
最も思い入れの強いメイクに、クレオパトラを演じた2010年バンクーバー五輪出場時のフリープログラムを挙げる。
五輪シーズンとなった2009-2010年。安藤さんはこのプログラムに、なんと5種類の衣装を用意し、それに合わせて5種類のメイクを考えた。
「ひとつのプログラムに対し、5種類も衣装を用意することはあまりないと思います。これもニコライコーチの意向。『五輪は特別。いろんなバリエーションを着て、最終的に何を着るかを決める』と話をされました。
そうする理由の一つは、会場のフェンス(アイスリンクを囲む壁)の色です。例えば、トリノは赤、平昌は紫、バンクーバーはグリーン系、ソチや今回の北京はブルーでしたが、直前までボードの色がわからない。それで、五輪会場のボードの色に合わせて衣装を選べるように、と5種類用意しました。結局は五輪本番用に、エメラルドグリーンの衣装を新たに作ったんですけれど(笑)」
当時、フィギュアスケート界では「メダリストになるにはブルーの衣装がいい」というジンクスが選手間にあったという。しかし、安藤さんはプログラムのイメージから「ブルーはちょっと違う」と考えた。
「私は、『ザ・クレオパトラ』という衣装がよかった。それで、高貴な印象のエメラルドグリーンを基調にすること、エジプシャンのイメージに寄せること、そして、気持ちが落ち着くように、シンメトリーのデザインにすることなどを決めました。
この五輪用の衣装は、母と一緒に、漫画家の折原みと先生がデザインしてくださったんですよ」
迎えた五輪。安藤さんはショートプログラムを終えた翌日、長かった髪をバッサリ切り、フリープログラムに臨んだ。クレオパトラを彷彿させる直線的なボブスタイルと、グリーンとゴールド、イエローをグラデーションした印象的な目元。大胆なイメチェンは五輪だからこその決断? と聞くと「いえいえ、関係ありません」と笑った。
「実はあんまり審判へのアピールとか考えていなくて、シニヨンじゃないなー、切っちゃおうかなーみたいな軽いノリです。
クレオパトラのプログラムはそれまで、シニヨンに大きめのアクセサリーをつけて滑っていました。でも、ショートプログラムを滑り終わった後、急に思いついたんです。『クレオパトラって、シニヨンしてないよね?』って。
衣装もせっかく新調したし、気分転換にもなるかな、と思って切りましたが、結果、よかったです」
「よかった」という短い言葉には、安藤さんのスケートに対する想いがギュッと詰まっている。