「このままだと国立は埋まらない」 東京世界陸上に危機感、サニブラウンが次世代育成に励む理由
世界陸上で2大会連続入賞中のサニブラウン・ハキーム(東レ)が、「THE ANSWER」のインタビューに応じ、陸上界発展への想いを明かした。6月に小中高生を対象とした100メートルの主催大会「DAWN GAMES(ドーンゲームス)」を初開催。各カテゴリーのトップ選手に参加を呼びかけ、上位者には「世界を見て、肌で感じる機会を与える」という特典を盛り込む希望があるという。
サニブラウンインタビュー、主催大会「DAWN GAMES」に込めた想いとは
世界陸上で2大会連続入賞中のサニブラウン・ハキーム(東レ)が、「THE ANSWER」のインタビューに応じ、陸上界発展への想いを明かした。6月に小中高生を対象とした100メートルの主催大会「DAWN GAMES(ドーンゲームス)」を初開催。各カテゴリーのトップ選手に参加を呼びかけ、上位者には「世界を見て、肌で感じる機会を与える」という特典を盛り込む希望があるという。
現役選手としては異例の主催大会を実現させた背景には、25歳にして日本陸上界の未来を見据えた想いがあった。今夏にパリ五輪、来年に東京世界陸上が迫る中、アスリートには結果を出す以外にもすべきことがあると説く。現在の取り組みや課題、世界大会開催まで描く将来の構想などを聞いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
◇ ◇ ◇
「2年後の今頃東京で世界陸上やるわけだがこのままだと国立競技場は絶対埋まらないから何ができるかね」
2023年9月13日、サニブラウンはXにつづった。この3週間前、ブダペスト世界陸上の男子100メートル決勝を走破。前年オレゴン大会の7位に続く6位入賞を果たした。2大会連続でファイナリストになる日本人初の快挙。米国とハンガリーで体感した満員の客席は熱かった。
一方で国内大会にも目を移す。「このままじゃまずいな」。そんな危機感からのつぶやきだった。
今年5月20日、麻布台ヒルズを臨む東京・港区の所属事務所で行われたインタビュー。なぜ、陸上界を盛り上げたいのか。会議室の椅子に腰かけた25歳のスプリンターは、想いを打ち明けた。
「日本も最近はトップ層の選手たちが増えてきましたが、他の国はもっともっと強いし、層が厚い。アメリカはメダルを総なめにする。日本もいずれはそれくらいになれたらなって考えると、陸上人気を上げて、陸上をする子どもたちを増やしていかないといけない。上が急に強くなることはないので。陸上界をもっと発展させていきたいなと思っています」
アスリートにとって、自分の競技を盛り上げたいというのは自然な感情。ただ、その先に何があるのか明確にない選手も少なくない。「少し嫌な聞き方をします」と断ったうえで、「そもそも陸上が盛り上がらなくても社会は回っていくのでは」と不躾な質問をした。
サニブラウンは頷きながら、想いの根幹を明かしてくれた。
一番のきっかけはコロナ禍の21年東京五輪。無観客の国立競技場で200メートルを走った。「もの凄く寂しかったんですよ」。6万7750席のスタンドには「100人ちょっと」の関係者。まばらな拍手の音はトラックまで届いてこなかった。
「大会と呼んでいいのかわからないくらい。オリンピックではなかったですね、完全に」。大変な状況下での開催に多大な感謝を持ちつつ、声援がパフォーマンスに影響することを強く再認識した。「今まで当たり前だったものがなくなった。やっぱり観客、サポートしてくれている人がいて、やっとスポーツが成り立っている」
他競技と比べてしまうこともある。23年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は拠点を置く米国にいても、日本の国民的熱量がスマホ画面を通じて伝わってきた。
「やっぱり羨ましいですよね。WBC、サッカーやバスケのW杯と比べると、陸上は少し劣る。世界陸上は一つの催し物にはなっていますけど、それでもテレビの前で見るくらい。例えばいつも見る面白いテレビ番組があって、“その一部”で終わっちゃっているかなと。選手の地元でパブリックビューイングをするとか、国一丸となって応援してくれる大イベントになってほしい」
スポーツには幸せを呼ぶ力がある。だから、自分の愛する競技を盛り上げたい。では、なぜ陸上はムーブメントになりづらいのだろうか。