現役中の幸せも引退後の幸せも「その両方を叶えることは欲張りじゃない」

鈴木「競技に集中することは決して悪くないのですが、なかなか先のことまで考えられない、という状況にもなりやすいですからね。競技者としてのゴールと、その後の人生をどう生きたいかを考える。その両方を叶えることは決して欲張りじゃないし、むしろ欲張っていい。こんなに競技を頑張ったんだから、その先ももっと幸せになっていいじゃん！　って思います」

皆川「それを聞いて、去年のことを思い出しました。コロナ禍になり、ロシアに行けなくなって、1年間ずっと日本で練習をしていたんですね。その間、栄養士さんに改めて、栄養のことや、『しっかり食べてしっかり動く』という大事なところを教えていただいたんです。その時、ボロボロになった体で引退するのは、スポーツ選手としてもよくないし、その後の人生にも、影響してくるなと気づきました。

　実はロシアの先生からはずーっと、『新体操が全てではない。新体操の先の人生につながるスポーツ生活にしなさい』と言われていたんです。以前はその意味やイメージが浮かんでこなかったのですが、そのとき、ただ苦しくてしんどくて辛い練習を毎日繰り返して、体がボロボロになるまで追い込むのではなく、競技を、新体操を、楽しんでやろう！　とシフトチェンジしました」

鈴木「体とじっくり向き合ったとき、先生から繰り返し言われてきたことが浮かんできたんですね」

皆川「はい、そうなんです。心からもっとうまくなりたい、観客の皆さんに自分の演技から何かを伝えたいと思っても、やっぱり体が元気でなければ観客の方に何も伝わらないと思います。自分が健康で新体操を楽しんでいるからこそ、選手の想いが観ている人に伝わる。引退する1年前にはなりましたが、根本的なところを考えるようになり、体をもっと大切にしたいと思うようになりました」

鈴木「新体操もフィギュアスケートも、お客さんに何かを伝えられる、感じてもらえる競技でもあると思うのだけれど、やっぱり、不調だったり、栄養が足りてなかったりすると、演技や気持ちにも出てしまう。もちろん、不調であっても、技術的にコントロールし、そう見せないようにしなければいけない。でも、選手がエネルギーに満ちているかどうかは、演技にも出てしまう。

　今、健康で、この競技ができていることに充実していることが演技にも表れて、ジャッジを含め、観ている人たちに伝わる競技でもあるのかなと感じます。それから、皆川さんのお話を伺い、新体操も、いろいろ経験したうえでのたどり着いた自分というのが演技に投射されるだろうなと思い、フィギュアスケートとすごく近いものを感じました」

皆川「私も本当に同じ採点スポーツ、審美スポーツの感じていることを聞けて、これから指導者になるうえでも大事なことをたくさん聞けました。あの、私自身、フィギュアスケートが大好きで、テレビで放映している試合はほぼ全部観ています。鈴木さんの五輪の演技やシルク・ドゥ・ソレイユのプログラムも大好きで、自分も同じ曲を使ったこともあるんです」

鈴木「えぇーッ！　それは、ありがとうございます。すごくうれしいです。私も今日は本当にお話できてよかったです。これまでなかなか、他競技の選手、特に夏の競技の方とお会いする機会がなかったんですね。でも、皆川さんのお話を伺い、やっぱり審美系のスポーツって悩みや課題は一緒だなーと思って。それから次世代の育成という点では、今の時代に合わせていくことの大切さを感じました」

皆川「はい。私は選手たちには、競技を始めた頃に感じた『楽しい』という気持ちや、自分で決めた夢や目標を達成したいという、ワクワクした気持ちをずっと持っていてほしいなと思っています。これから指導者として、選手が好きなスポーツを心から楽しんで打ち込める環境を作っていきたいと改めて感じました」